「ロジカル」を使いこなせる人が少ない理由
私が三菱商事で働いていた時、ずいぶんとたくさんの報告書や稟議書を書かされました。新人時代には、先輩にドラフトを提出すると、まさに真っ赤に赤ペンを入れられ、何度も何度も必死に手直ししたものです。
あるとき先輩から「君の文章はロジカルではないので、分かりづらい」と言われました。私は、その先輩に「すみません、ロジカルって何でしょう?」と尋ねました。先輩の答えは「ロジカルとは、論理的だということだ!」というものでした。今となっては笑い話ですが、本当の話です。
その時から「そもそも“論理的=ロジカル“のポイントが分かっていれば、誰でも自分でチェックできるし、後輩や部下にも的確に指導できるのではないか」とずっと考えていました。
「ロジカル」を使いこなせない、もしくは苦手意識を持っている人が多いのは、まさにここに原因があり、「ロジカル」のポイントを教えられる人がいないからだと思います。
そもそも「ロジカルに伝える」とは何か?
さて、そもそも「ロジカルに伝える」とは何でしょうか?
「ロジカルシンキング」を教えると、たまにこのような方がいます。
「自分はロジカルに話している。結論を最初に伝えているし、ポイントも何点あるか、明確に示している。でも、相手は私の話をよく理解していなかった。相手がロジカルではないから、仕方ない」と。
このような姿勢は「ロジカル」を使いこなそうとする者の姿勢として正しいでしょうか。私の答えは「否」です。
そもそも我々はなぜ「ロジカルに伝える」必要があるのでしょうか。
ビジネスパーソンは皆多忙です。1分1秒が惜しい。仮に1日1,000時間あり、どれだけだらだら話してもよければ、いつか相手に伝わるときが来るでしょう。でも、時間は有限です。であれば、1分でも1秒でも、相手に最速で伝えるのが、相手に対しての最低限の礼儀ではないでしょうか。
「最速に相手に伝える」を「ロジカルに伝える」の目的に据えると、「相手がロジカルではない」とバッサリ切り捨てる姿勢は、そもそも間違っているのです。なぜならば、「相手に伝わっていない」時点で目的が達成されていないのであり、「自分はロジカル」は完全に思い込みに過ぎないということです。
「ロジカル」とは?
では、そもそも「ロジカル(論理的)」とは何でしょうか?
簡単に言えば「A⇒B」が相手の頭の中で成立している状態です。
例えば、「大谷翔平選手はスーパースターである」に異論を差し挟む日本人はほぼいないでしょう。
でも、これが野球を知らないケニア人ならどうでしょうか。
「そもそも野球とは何か?」「なぜ日本人は野球が好きなのか?」「メジャーリーグと日本のプロ野球リーグの違いとは?」「二刀流はなぜすごいのか?」「大谷翔平選手のメジャーでの成績とは?」等…日本人の多くからすると当たり前の前提知識から丁寧に説明しないと、納得してくれないでしょう。
つまり「A⇒B」の間に、十分な説明を入れないと、ロジカルではなくなり、相手に伝わらなくなってしまいます。
イメージは以下です。結論を論拠で支えています。これを俗に「ピラミッド構造」といいます。
最終的に、しっかりした「ピラミッド構造」を作り上げることが「ロジカルに伝える」ために必須になります。では、「ピラミッド構造」を作り上げるには、何に気を付けたらよいのでしょうか。
ロジカルに伝える「5つの力」
「ロジカルに伝える」ためには、たった「5つの力」を身に着けさえすれば大丈夫です。その「5つの力」とは、①とらえる力、②答える力、③まとめる力、④つなげる力、⑤広げる力、の5つですそれぞれについて、簡単に解説していきます。
①とらえる力
「答えるべき問い」のことを「論点」と言います。例えば、以下は「論点」です。
* 「今晩の夕食のメニュー、何がいい?」
* 「今日のお出かけ、傘を持って行った方がいいかしら?」
* 「来週の〇〇商事との会食のレストラン、どこにすべきだろうか?」
* 「わが社はこの新規事業に参入すべきだろうか?」
まずは相手目線に立って、この「論点」を正しく「とらえる」筝が、「ロジカル」の第一歩になります。
実は、この「論点」を正しく捉えていないことで、そもそも相手の目的や聞きたいことに全く答えていない的外れな回答をすることがよくあります。
例えばですが、「今晩の夕食のメニュー、何がいい?」での奥様の目的は何でしょうか。恐らく「毎日毎日メニューを考えるのも飽きたし、アイデアも思い浮かばない。何か具体的なメニューを提案してほしい。」だとします。
すると、よくある「うーん、何でもいいよ!」という答えは、相手の目的を捉えておらず、場合によっては相手を怒らせてしまうことにもなります。
②答える力
三菱商事で働いていた若手時代、あるお客様との会食のレストランを設定することになりました。私は上司から「次の〇〇商事との会食のレストランをどこにしたらよいか、提案してきてくれ」と指示を受けました。
私は、イタリアン、中華、和食のお店をそれぞれ一つ選び、それぞれのお店のメリットとデメリットを調べて、上司に報告しました。「A、B、Cの候補を選びました。それぞれのメリットデメリットは以下の通りです。どれも甲乙つけがたいですが、どれがいいですか?」と。
そうしたら、私は上司からめちゃくちゃ怒られました…。なぜだかわかりますか?
上司の指示を思い出してください。上司の指示は、「「次の〇〇商事との会食のレストランをどこにしたらよいか、提案してきてくれ」でしたよね。
そうです、私は選択肢を提示しただけで、どこが良いのかの提案をしていなかったのです。上司からは「俺の仕事は決断することだ。自分で考えて答えることから逃げるな!」と怒られたのです。
このようなケース、実はたくさんあります。せっかく論点をとらえたにも関わらず、「答える」ことから逃げてしまっている。
しっかり論点を捉えたら、逃げずに自分なりに答えましょう。
③まとめる力
とはいえ、闇雲に答えていては、正しい答えを導けないですし、相手も納得してくれません。正しい答えを導き、相手に納得してもらう説明をするためには、雑多な情報やデータを「まとめる力」が必要です。
例えば、町の定食屋さんで、このような読みにくいメニュー表を見たことはありませんか?
それを以下のように整理すると、各段に読みやすくなりますよね。
雑多な情報やデータを共通の要素でまとめて分類することで、分かりやすく整理できますよね。
④つなげる力
さて、雑多な情報やデータをきれいに整理出来たら、次にそれらを結論に対する論拠として、繋げていきます。
ここでは、論拠と事実の違いを明確にしましょう。
例えば、「〇〇商事との会食は、△△亭にすべきである」という結論に対する論拠として、△△亭は、「静かでゆっくり話ができる」という「論拠」を挙げたとしましょう。でも、これはあくまであなたの考えであって、これだけだと「本当?」となります。
なので、「本当?」と言われないようにするために、「事実」で支える必要があります。
例えば、「4人用の個室が確保できており、隣の部屋とは厚い壁で隔てられているため、外の声は聞こえない」が「事実」になります。
よくあるNGが、論拠(考え)は伝えていても、「事実」で支えられていないケースです。「論拠は具体的な事実で支える」という癖を常に持つように意識しましょう。
⑤広げる力
結論と論拠を繋げられたら、最後に「広げる力」を使って、網羅性をチェックします。
ロジカルシンキングの世界では、「MECE」(ミーシー)という言葉があります。英語では、”Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive”と言いますが、日本語で「漏れなくダブりなく」と覚えて頂ければ十分です。
「漏れ」があれば、結論を間違えてしまう
「ダブり」があれば、効率が悪くなってしまう
このうち、ダブりはまだ効率が悪くなるだけなのですが、「漏れ」があると結論を間違えてしまうので、より危険性が高いです。なので、最初のうちは「漏れはNG、ダブりは最悪OK」と覚えておきましょう。
例えば、折り畳み傘を二本持っていくのは効率が悪いですが、最悪夕立が降ってもずぶぬれになりません。でも、そもそも折り畳み傘を持っていなければ、ずぶぬれになってしまいますよね。
では、「漏れ」を防ぐにはどうすればよいか。色々ポイントはありますが、最低限「他人の頭を借りる」を実践するようにしましょう。要するに、他人に聞けばいいのです。「これで漏れないですか?」「他に何かないですかね?」など、常に「漏れは怖い」と意識して問いかけていきましょう。
また、インターネットを駆使するのも立派な「他人に聞く」方法です。最近ではChat GPTを活用してもよいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。「ロジカルに伝える」ためのポイントは多くありません。
①「とらえる力」で論点を捉え、②「答える力」で、捉えた論点に応え、③「まとめる力」で雑多な情報やデータを整理し、④「つなげる力」で、結論と論拠を繋げ、⑤最後に「広げる力」で網羅性を確認します。
この5つの力だけを身に着ければ、誰でもロンジカルにコミュニケーションを取れるようになります。
よくある「ロジカルシンキング研修」では、ロジックツリー、演繹法帰納法、MECE、ピラミッド構造…たくさんの横文字や難しい言葉がバラバラと並び、結局「何か学んだ気がするけど、よくわからん。やっぱりロジカルシンキングは苦手だ…」となってしまいます。
研修会社を選ぶ際には、講師の自己満足の研修ではなく、ロジカルのポイントをシンプルに分かりやすく伝えられるかどうかを基準にするとよいと思います。
当社では、以上の「5つの力」を実践的に使えるようになるまで鍛える次世代リーダー育成プログラム【ビジネス地頭力養成講座】を提供しています。興味のある経営者・人材育成のご担当者様、お気軽にお声がけください。
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