改めて「経営戦略」とは?と聞かれて、淀みなく答えられる方は少ないかと思います。 「戦略は作った方が良さそうだなぁ…」「でも、そもそも戦略ってなんだっけ?」「どうやって作るんだっけ?」と悩みながら、なんとなく経営コンサルタントに丸投げしてしまう…そんなケースも多いのではないでしょうか。
ということで、今回のコラムでは、「そもそも戦略ってなんだっけ?」から始まって、「経営戦略の作り方」まで簡単に解説していきたいと思います。
そもそも「戦略」とは何か?
みなさんは、「戦略」の語源をご存じでしょうか。 「戦略」とは、その名前の通り「戦いを略す」という意味です。即ち、戦うべき領域を決め、逆に戦わない領域を「捨てる」ということです。
言うまでもなく、経営資源は限りあるものです。その経営資源をどこに集中して投下するのか、そして、どこの領域を「捨てる」のか、の判断する基準が「戦略」ということになります。
集中するために「捨てる」勇気
大事なことは、「捨てる」勇気を持つということです。せっかく集中投下する領域を決めても、「捨てる」勇気を持てないために、結局現状維持になっているケースがたくさんあります。これでは、戦略を策定した意味はありません。
簡単な例を出しましょう。
A、B、C、Dという4つの市場があります。現在、それぞれに100万円ずつ投下しています。 Aは衰退市場で、10年後には110万円にしかなりません。BとCは、成熟市場で安定して利益が見込めるので、10年後には200万円になります。 Dは、今は小さな市場ですが、将来大きく伸びる見込みで、10年後には1,000万円になります。 単純化して、リスクを一切無視して、ABCDで述べた成長率が確実に達成されるとします。すると、400万円全てをDにぶち込んで、ABCから撤退するのが合理的な判断ですよね。 でも、実際に起こることは、Aの衰退市場をそのまま維持して、本来Dに振り分けるべき100万円を、BとCに50万円ずつ投下するようなことが起こります。 なぜならば、A~Cは既にそこで働く人がおり、既得権益が発生しているため、そこから撤退しようとすると、大きな抵抗が起こるからです。
リーダーシップとは、既得権益を打破し、成長する領域に経営資源を投下できる胆力・決断力・実行力を指します。これができないリーダーは、組織を衰退へと導くのです。
「良い戦略」とは何か
「わが社は現在業界3位である。我々の戦略は、今後3年間で売上を倍増し、業界一位に躍り出ることだ!」
このような「戦略」を語るリーダーは多いです。でも、これは「野心」「お題目」であって、「戦略」ではありません。
「戦略」とは、戦う領域と撤退する領域を明確に分け、どこに経営資源を集中するかの道しるべです。「野心」を達成するために具体的な道しるべが見えないものは、「戦略」ではありません。
「売上倍増」という野心を聴いても、部下は「エイエイオー!」しか言えません。「具体的に、どの商品・サービス・顧客・地域を攻めていくのか?」「売上を伸ばすには、客数を増やすのか?単価を上げるのか?」「その論拠は何か?」「どういうステップで最終的に「売上倍増」を達成するのか?」
これらを明確に示しているものが「良い戦略」なのです。
スティーブ・ジョブズの「最もクールな仕事」
「良い戦略」が端的にわかるスティーブ・ジョブズのエピソードをお伝えします。
スティーブ・ジョブズはAppleを創業した後、自分が任命したCEOによって、Appleを追われてしまいます。
その後、経営不振に陥ったAppleを立て直すため、彼は再度AppleのCEOに就任します。
彼が一番最初に行ったことが、まさに「戦略」でした。
彼は、縦軸を「ポータブル/デスクトップ」、横軸を「プロ用/アマ用」とし、4つの象限を作りました。その時のAppleの製品は数十を数えていましたが、彼は、「この4つの象限で、それぞれ一つずつ、クールな製品を開発しろ」と命じたのです。
その結果生まれた商品がiPad、Mac、Mac Pro、PowerMacであり、それぞれが爆発的にヒットして、今やAppleは時価総額で世界ナンバーワンと大躍進を遂げたのです。
逆に言うと、それまで資源投下してきたプリンターや周辺機器からは一切撤退、ソフト開発からも撤退して多数のエンジニアを解雇、代理店も大幅整理、製造部門も縮小し、台湾の請負企業に切り替えました。
ジョブズの面白いところは、売上高や利益の目標を一切掲げなかったことです。闇雲にコストカットをするのではなく、自社は企画に専念、製品ラインを整理し、生産を外注し、直営店で販売する
リーダーシップとは、「良い戦略」を立て、そして様々な利害対立や既得権益を乗り越えて、その戦略を確実に実行させること。
れこそ、まさに「戦略」であり、どこに経営資源を集中させるのかの意思決定とリーダーシップを表すエピソードだと思います。
「経営戦略」を立てる心構えとは
さて、企業の中には「経営戦略は立てたいけど、よくわからないので、とりあえずコンサルタントに相談してみよう」と経営コンサルに話をし、その結果、ほぼ丸投げになってしまうケースがよくあります。
確かに、コンサルは専門家ですし、資料の見せ方も上手なので、ロジカルで見栄えの良い経営戦略の資料が出来上がります。
でも、ちょっと考えてみてください。
IQ150、偏差値95、超イケメンで性格もよい子供が、明日から急にみなさんの子供になったとして、その子供を心から愛し、育てることはできるでしょうか。
頭は悪いかもしれない、顔も自分に似て不細工、性格も頑固者。でも、自分が手塩にかけて育て、色々な経験を共有しているからこそ、その子を愛し、「良い人生を歩んでほしい」と心を込めて育てるのではないでしょうか。
経営戦略も同じです。
栄えが悪くてもよい、多少ロジカルじゃなくてもよい。大事なことは、自分たちの手で丹精込めて作り上げることなのです。だからこそ、その戦略を自分事として、実行に移そうというモチベーションが湧いてくるのです。
とはいえ、そもそも「経営戦略の作り方」が全く分からなければ、最初の一歩を踏み出せませんので、簡単に「経営戦略の作り方の基本」をお伝えします。
「経営戦略」の基本はSWOT分析
「戦略」の要点はただ一つ。「機会を捉え、強みを活かす」です。
みなさんはSWOT分析というフレームワークをご存じでしょうか。
S=Strength(強み)、W=Weakness(弱み)、O=Opportunity(機会)、T=Threat(脅威)の頭文字をとって、SWOTと言います。
有名なフレームワークなので、ご存じの方は多いと思いますが、きちんと使いこなしている方は少ないようです。
SWOTは、ただ単に「強み・弱み」「機会・脅威」を整理するためだけに使うのは、あまりにもったいないです。その先の「戦略」に活かすためには、クロスV-SWOTというフレームワークを使います。これは、Vision(会社の長期的な方向性)を前提にして、SWを横軸に、OTを縦軸にとって、SWとOTをクロスさせることで、4種類のシナリオを作るフレームワークです。
S(強み) × O(機会)は①「強みを活かして機会に乗じる」
W(弱み) × O(機会)は②「機会に乗じるために弱みを克服する」
S(強み)× T(脅威)は③「強みを活かして脅威に備える」
W (弱み)× T(脅威)は④「脅威に備えるために弱みを克服する」
となります。
このうち、戦略として最も優先順位が高いのは、①です。市場に機会があり、かつ強みを活かせるならば、成功確率は高くなり、集中的に経営資源を投下すべきという結論になります。
②は、ケースバイースになります。つまり、「機会があるのだから、頑張って弱みを克服しよう」という場合と、「機会はあるけど、自分達の強みは活かせなさそうだから、撤退or無視しよう」となります。
③はどうでしょうか。③の基本方針は、「守り」です。脅威が来るのですから、何らかの防衛策が必要です。しかし、「脅威」にいくら備えても、リスク対策にしかなりません。従って、「強み」を活かして守り抜くことが重要です。
④はいかがでしょうか。もし、「脅威が明らかで、かつ弱みしかない」既存事業であれば、撤退を検討します。もし、新規事業を考えているならば、その事業に進出するのは止めましょう。
さて、2020年、コロナ禍によって飲食店は大打撃を受けました。私の住む東京の飯田橋は、神楽坂という昔の花街があり、2千店の飲食店がしのぎを削っています。コロナ禍でも売上が伸びたお店もあれば、残念ながら閉店になってしまったお店もあります。この違いが生まれる背景は何でしょうか。
大きな違いは「コロナ禍」をいう事実をどう捉えるか?ということです。大きく3つに分けられます。
1. 最初は「コロナ禍」という大きな脅威が来た時に、何も手を打てなかったお店。
2. 次に「コロナ禍」という大きな脅威が来た時に、何らかの対策を打ったお店、
3. そして、最後に「コロナ禍」という大きな脅威を、むしろ機会と捉えて、売上拡大の手を打ったお店
1.は外部環境に身を任せるだけで、最悪倒産。2.は「コロナ禍」を「脅威」と捉え、リスク対策を行うが、リスク対策に過ぎないので、マイナスをゼロにすることはできても、プラスにはできません。3.は、「コロナ禍」を機会と捉え、ゼロからプラスに持っていく思考です。
1.は論外として、一見「脅威」と思われることでも、それを「機会」と捉える見方ができないか? という思考が重要になります。同時に、一見「機会」と見えても、足元をすくわれる「脅威」はないか、と慎重になることも重要です。
人間は、何か事実に直面した時に、瞬間的に「機会」か「脅威」かに分類してしまいます。その直感に身を任せるのではなく、「機会」を敢えて「脅威」、「脅威」を敢えて「機会」と捉えることで、思わぬところのリスクやビジネスチャンスを発掘することができるのです。
戦略思考ができる右腕を作る方法
企業の規模が拡大してくると、経営者が一人ですべての事業を見れなくなります。その際に、この「戦略思考」ができる人材を育て、自身の右腕にし、事業を任せていくことが必要になります。
「戦略思考」を身に着けさせるには、実際に何らかの事業についての戦略を描かせることが一番です。もし右腕の候補が数名いれば、彼らに「戦略」を描かせ、もっとも戦略思考ができる人材を選抜する方法もあります。
でも、その前に経営者自身が「戦略とは何か」を理解し、「戦略」の良しあしを判断する目利き能力を養うことが重要です。
当社では、次世代リーダー育成プログラムとして「ビジネス地頭力養成講座」を展開しております。この中で、戦略思考を身につけさせて実際に事業の戦略を描かせることもできます。ご興味のある経営者の皆様、いつでもご連絡ください。
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