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プライシング戦略の重要性について

値付け(プライシング)戦略は、経営者の仕事の中でも、最重要の仕事の一つです。自らの製品サービスの価値が一体どれほどなのか?をマーケティング全体の中で位置づけて考えていかなければ、長期的な利益を最大化することはできません。そして、長期的な利益を最大化することこそが、経営者の最重要な仕事なのです。
本記事では利益を最大化するためのプライシング戦略について解説します。


マーケティングにおける誤った値付け(プライシング)論

マーケティングの教科書を読むと
値付け(プライシング)には

1. コストべース(生産コストの利益を乗せる)
2. 競合ベース(競合の価格を参考にする)
3. 価値ベース(顧客提供価値で決める)

の3つがあります。
というような記述を見かけます。
私は、この記述を読むたびに、大きな違和感を持ちます。
なぜならば、これらは、あくまで現象として起こっている値付け(プライシング)方法を分類しただけであって、「いかに売上・利益を上げるか」という目的に沿った理論的な方法論ではないからです。


値付け(プライシング)の持つ社会的な意義

かつて支援していた中小企業で、高い技術を持った特殊塗装の会社がありました。そこは、大手がとても対応できないようなニーズに対応できる会社でしたが、価格が「コストベース」だったため、利益率が上がらず、コロナでの需要減が直撃したこともあり、債務超過に苦しんでいました。
社長に「もっと価値があるのだから、思い切って値上げをしましょう!」と何度もお話しし、ようやく首を縦に振ってもらいました。社長とは、その会社の製品の価値がどのようなものかを徹底的に議論し、顧客に十分に説明できるように資料にも落とし込みました。
その結果、危惧していた危惧していた顧客離れも起こらず、無事に値上げが成功し、難局を乗り越えられました。


もし、この会社が値上げに踏み切れず、そのまま倒産していたら、どうなるでしょうか。彼らの類まれなる高い技術は世界から消え去ってしまいます。
つまり、値付け(プライシング)は、何よりも「価値ベース」で考えるべきなのです。「価値」よりも安値で販売することは、私の支援先のように、適切な利益が企業に残らず、本当に価値ある企業が世の中に残らなくなるという意味で、「罪」とさえ考えてよいと思います。

「コストベース」は、自分の商品の価値がわからない場合に、「競争ベース」は、市場での価格競争に飲み込まれて差別化できない時に、やむに已まれず選択せざるを得ない方法であって、マーケティングで積極的に選択すべき方法ではないということです。


顧客支払意志額(Willingness To Pay:WTP)とは

さて、あるラーメン店の値付け(プライシング)を考えてみましょう。

このラーメン屋さんには、お客さんが3名います。
一人はラーメン大好きな小池さんで、夕食にラーメンを食べに来ます。彼は、このラーメンには一杯1.500円払ってもよいと考えています。
一人は近所の会社に勤務するサラリーマン大原さん。彼は、このラーメンには一杯1,000円を払ってもよいと考えています。
最後の一人は苅野さん。彼は近所に住む浪人生で、一杯500円までしか払えないと考えています。

この時に売上を最大化する価格は一杯いくらでしょうか?
答えは1,500円ですよね。
1,500円にすると、小池さんしか来ませんので、売上は1,500円。
500円にすると、3人全員が来ますが、売上は同じく1,500円です。
1,000円にすると、小池さんと大原さんが来るので、売上は2,000円です。

でも、ちょっと待ってください。
本当に1,500円が売上を最大化するのでしょうか?
本当に売上が最大化するのは、小池さんに1,500円、大原さんに1,000円、苅野さんに500円で販売できる時ですよね。
例えば、小池さんにはディナー価格で1,500円、大原さんにはランチ価格で1,000円、苅野さんには学生割引で500円で販売してみてはいかがでしょうか。
こうすると、全員が「この価格までなら買ってもよい」という最大金額で購入できますよね。

マーケティングでは、「この価格までなら買ってもよい」という顧客ごとの最大金額を顧客支払意志額(Willingness To Pay:WTP)と言います。
このWTPの考え方は至る所で使われています。
例えば、居酒屋の「2杯目のビールは半額」は、まさにWTPを使っています。一杯目はのどが渇いているので高くても飲みたい。でも、2杯目以降はお腹も溜まるし、そんなにお金は払えない。そんな顧客のWTPの変化を巧みにとらえている訳ですね。

カラオケの昼と夜の料金の違い、需給に応じて価格が変わるホテルや航空券のダイナミックプライシング、タージマハルでの外国人と現地人の料金格差なども、こうしたWTPによって説明されます。

値付け(プライシング)で重要なことは、顧客のWTPをしっかり捉え、そしてWTPを最大限に取り込むための戦略を考えることなのです。
特にBtoBにおいては、顧客ごとに価格を変えることが出来るケースが多いです。シャンプーで「Aさんには500円、Bさんには200円」などと出来ませんよね。でも、例えば、機械を企業に販売する場合、「A社には定価500万円、B社は長年の取引があるから400万円」などのように、様々な条件を組み合わせて、比較的柔軟に価格を変えることが可能です。

経営者の多くは、コストベース至上主義に陥っています。「コストが100万円だから、20%の利益率を載せて120万円」という値付け(プライシング)は、経営ではありません。自分たちの製品サービスを、各顧客がどのように感じているのか?を日々のコミュニケーションの中から把握する努力が重要です。


顧客生涯価値(Lifetime Value:LTV)とは

タイヤメーカー「ミシュラン」で実際にあったケースを考えてみましょう。

ミシュランはタイヤの耐久性を25%改善した新しいタイヤを開発しました。しかし、顧客は「タイヤは一個xxドル」という相場観があり、値上げを提案しても受け入れてくれません。皆さんなら、どのような価格を提案しますか?

彼らが実際に行ったことは、従量課金、即ち「1km走るごとにいくら」という価格体系に変更しました。これによって、耐久性が向上した分の値上げが実質的に可能になりました。
これは、ミシュランと顧客、双方にとってメリットがあります。
顧客からすると、実際にトラックを走らせた時点で費用が発生する為、売上と費用の収益認識が同時になり、収益予測が簡単になります。また、タイヤが固定資産として計上される場合は、面倒な減価償却などの会計処理からも解放されます。
ミシュラン側のメリットは、もちろん実質的に値上げが可能になることもそうですが、もっと本質的に重要なメリットがあります。

それは、値付け(プライシング)が変わったことによって、ミシュランが提供する価値が、タイヤという「モノ」から、「走る」という「コト・サービス」に転換したことです。
それまでの「モノ」売りでは、タイヤは一回売って終わり。その後の顧客接点は故障時での修理と買い替え時期位になります。でも、従量課金にすることで、ミシュランは顧客と永続的に関係を持ち続けることができます。こうして顧客と長期的な関係を築くことで、ただタイヤを売るだけではなく、「走ること」に派生する様々なアップセルが可能になります。
このように、値付け(プライシング)は大きなビジネスモデル全体とも密接に関わってきます。顧客と長期的な接点を持って継続的に価値提供するための価格設定を考えていきましょう。

このように顧客か長期的に得られる価値を、顧客生涯価値(Lifetime Value:LTV)と言います。LTVは、企業側の視点で、いかに「顧客の目をくらませて長期的にお金を得るか」という文脈で語られることも多く、私は注意が必要だと考えています。よく男性用髭剃りが例として挙げられます。「本体を安く売って、付属のヒゲソリで高く販売すると、本体を高く売るよりも継続的に売上を高く上げられる」というものです。しかし、この企業視点の考え方は、大変危険で有害ですらあります。本来的には「顧客が長期的に価値を感じ続けるためにはどういう値付け(プライシング)か?」という顧客視点で考えなければ、本当に意味で長期的に利益を上げ続けることはできないでしょう。


最後に

どうも日本のビジネス風土として「値上げはよくないもの」という固定観念があり、「値付け(プライシング)」はあまり重要視されてこなかったように思います。
かつて稲盛和夫さんは「値付け(プライシング)は経営」、また値付け(プライシング)で世界的に著名なコンサルタントのハーモン・サイモンさんは「値付け(プライシング)はCEOがコミットすべきテーマ」と仰っていましたが、まさにその通り。
企業でのマーケティング研修でも、「値付け(プライシング)に対する正しい本質的な考え方」を伝えていく必要があると思います。

Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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