〜目的論で考える感情とマネジメント〜
■ 大阪のカフェでの出来事
先日、大阪出張の合間に立ち寄ったカフェで、強烈な体験をしました。
ゆっくりとコーヒーを飲んでいたところ、店内に響き渡る怒鳴り声——
「おんどりゃ、何わしのケーキを勝手に捨てて席に座っとんねん!外国人だからって、何でも許されると思うなよ、ボケ!落とし前つけろや!うるぅあ〜〜ゴラァァア!」
(※大阪弁に誤りがあればご容赦ください)
怒鳴っていたのは高齢の男性。その矛先になっていたのは、どう見ても観光客と思われる東アジア系のご家族でした。日本語が通じない様子で、怒声にただただ呆然としている姿が印象的でした。
■ きっかけは「ケーキ事件」
事情を聞くと、その男性がトイレに立っている間に、ご家族が席を「空いている」と勘違いし、テーブルに残っていたケーキを片付けてしまったとのこと。明らかに悪意はなかったように見えました。
見かねた私は間に入り、ご家族に代わって500円を支払い、その場は何とか収まりました。
しかし驚いたのはその後です。怒鳴り散らしていた男性が、ご家族が退店した瞬間、店員に向かって「うるさうしてごめんな」と、実に穏やかな声で話し始めたのです。まるで別人のように。
■ 一見すると「原因論」に見えるが…
この出来事は、心理的に非常に示唆に富んでいます。
一見すると、
「ケーキを捨てられた(原因)」→「怒りが湧いた(感情)」→「怒鳴った(行動)」
という「原因論的」な流れに見えます。
しかし、本当にそれだけだったのでしょうか?
■ 相手が違ったら、同じ行動だったか?
仮にその場にいたのが、体格の大きな欧米系の男性だったら?
あるいは、地元の若者だったら?
彼は同じように怒鳴ったでしょうか?
あるいは——
・職場で自分の立場が弱くなっている
・家庭や社会の中で自信を失っている
・日頃からモヤモヤした感情を抱えている
そんな“背景”があった上で、「自分よりも立場の弱そうな相手」に対して感情を爆発させた可能性はないでしょうか?
■ 感情には“目的”があるという考え方
このように、「出来事によって感情が生まれる」と考えるのではなく、
「ある目的があって、そのために感情や行動が選ばれている」と見る考え方があります。
それが 目的論(Teleology) です。
目的論では、怒りという感情も、「ただ反射的に出たもの」ではなく、
「自分を守りたい」「優位性を示したい」「誰かに気づいてほしい」といった無意識の目的が、行動を引き起こしていると捉えます。
■ 目的論のメリットとは?
原因論が「過去に起きたこと」に注目するのに対し、
目的論は「これからどう生きるか」に焦点を当てます。
ここに、大きな違いがあります。
- 原因論:過去にとらわれ、変えられないことを追いかける
- 目的論:未来に目を向け、これからを選び直せる
私たちは過去を変えることはできません。
しかし、目的は自分の意思で選び直すことができるのです。
■ 管理職育成にも「目的論」は有効
私たち2E Consultingでは、管理職育成プログラムの中で、この「目的論的アプローチ」を非常に重視しています。
たとえば、マネージャーが部下に対してつい怒ってしまう場面でも、
「なぜ怒ったのか?」ではなく、
「何を守りたくて怒ったのか?」
「どんな期待が裏切られたと感じたのか?」
といった問いを立て直すことで、自分自身の目的に気づけるようになります。
■ 部下やチームの行動も、目的から見直す
部下が思うように動いてくれないときも、
「どうしてやらないんだ?」と責めるのではなく、
「やらないことで、どんな目的を果たしているのか?」と見直してみる。
たとえば、
・指示に従わない=自分の存在価値を守っている?
・会議で発言しない=失敗して評価を下げたくない?
・仕事を抱え込む=他者に任せて失敗するリスクを避けたい?
このように目的を読み解いていくと、行動の裏にある“本音”や“恐れ”が見えてきます。
■ 「行動変容」の第一歩は、“目的の問い直し”から
マネジメントにおいて、最も大切なのは「行動」ではなく「意味づけ」です。
怒りや葛藤が生まれる場面でこそ、自分自身や相手の「目的」を見つめ直す。
この視点の転換こそが、行動変容の起点になります。
私たちが提供する研修やコーチングでは、こうした目的論をベースにした思考と対話を通じて、管理職やリーダーが自らの目的に立ち返り、組織の行動文化を変えていくサポートをしています。
■ 結びに代えて 〜目的に気づくことの力〜
人は、目的に気づいた瞬間に変わり始めます。
怒りや不満、摩擦や葛藤——
そのすべての背後に、「本当はどうありたいのか」「本当は何を守りたいのか」という目的が隠れています。
「なぜ怒ってしまうのか?」ではなく、
「何のために怒ったのか?」を考える。
「どうして変われないのか?」ではなく、
「何を得るために変わらないことを選んでいるのか?」を見つめる。
そんな問いを、自分にも、部下にも、そして組織にも投げかけてみてください。
その瞬間から、あなたのマネジメントは変わり始めるはずです。
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