――トップの在り方とリーダー教育が組織の空気を決める理由
先日、剣道のご縁で ブルネイ を訪れました。
滞在の主目的は剣道交流で、観光はごく限られた時間でしたが、現地で感じた「空気感」が、帰国後も強く印象に残っています。
街は静かで、人々は穏やか。
首都であっても騒がしさはほとんどなく、自然と都市が不思議なバランスで共存している。
その佇まいは、単なる観光地の印象を超えて、
マネジメントを生業とする立場の私に、一つの問いを投げかけてきました。
なぜ、この国はこれほど穏やかなのか。
同じ資源国でも、なぜ国や組織に差が生まれるのか
ブルネイは産油・産ガス国です。
世界に目を向けると、同じように資源を持ちながら、内戦や貧困に苦しむ国は少なくありません。
制度、宗教、国民性など、要因は複合的でしょう。
ただ、マネジメントの視点で俯瞰したとき、非常に示唆的だと感じた点があります。
それは、
「トップの在り方が、組織(国家)の空気を決定づけている」
という点です。
これは国家に限らず、企業や組織においても、
私たちが日々現場で目にしている構造と重なります。
マネジメントの視点で見る「トップの在り方」
民主主義国家では、他者との競争を勝ち抜いた人物がトップに立ちます。
これは企業に置き換えれば、
成果競争や社内政治を勝ち抜いて上に立ったリーダーと、極めてよく似た構造です。
この構造そのものが悪いわけではありません。
しかし、ここには構造的なリスクが潜んでいます。
競争を勝ち抜いたトップが抱えやすいリスク
トップ自身が、無意識のうちに
「地位を守ること」にエネルギーを使い始めてしまうことです。
- 批判に過敏になる
- 異論を脅威と感じる
- 短期成果を誇示したくなる
こうした状態が続くと、組織では次のような現象が起きます。
会議が形骸化し、対話が消えていく理由
- 会議は「決める場」ではなく「報告の場」になる
- 忖度が増え、本音が語られなくなる
- 長期的な意思決定が先送りされる
結果として、組織は大きな問題を抱えていないように見えながら、
静かに疲弊していきます。
これは、私たちが企業研修やコンサルティングの現場で、
繰り返し目にしてきた光景でもあります。
ブルネイ王政が示す、もう一つの前提
一方で、ブルネイの王政は、まったく異なる前提に立っています。
生まれながらにしてその立場にあり、
他者と競争して勝つ必要がない。
ここまでは、単に「環境の違い」に見えるかもしれません。
しかし、重要なのはその次の一手です。
守られた立場に安住しないための「リーダー教育」
ブルネイの現国王は、イギリスに留学し、
いわゆる帝王学を含む教育を受けています。
これは非常に示唆的です。
生まれながらにして守られた立場にあるからこそ、
あえて外の世界に身を置き、
異なる価値観、異なる文化、異なる常識に触れる。
そのプロセスを通じて、
- 自分の立場が「特別なもの」であること
- 自分の常識が「絶対ではない」こと
- 世界には多様な正解が存在すること
を、身体感覚として学ぶ。
これは、単なる知識習得ではありません。
自己を相対化するための教育です。
リーダー教育と「自己基盤力」の関係
当社が重視している「自己基盤力」とは、
他者との比較や評価によらず、
自分自身の軸で意思決定できる力です。
守られた環境の中だけで育つと、
人はどうしても「自分が正しい」という感覚を強めていきます。
それは、無自覚な傲慢さにつながりかねません。
一方で、外の世界に触れ、
自分を相対化する経験を積んだリーダーは、次の状態に近づきます。
- 自分を過信しない
- 他者の意見を脅威と感じない
- 長期視点で物事を考えられる
これはまさに、
自己基盤力が安定している状態です。
ブルネイの穏やかな空気感は、
単に「競争しなくてよい立場」から生まれているのではありません。
競争しなくてよい立場にある人間が、
なお自らを鍛え、相対化してきたこと。
その積み重ねが、
トップの在り方として表れているのではないか。
私はそう感じました。
問われているのは制度ではなく、リーダーの内面
ここで強調したいのは、
「王政が良い」「民主主義が悪い」という話ではありません。
本質的な問いは、ここにあります。
マネージャー(経営者・管理職)は、
自分を相対化する機会を、意図的に持っているか。
そして、
自分の承認欲求は、どこに向いているのか。
他者からの評価なのか。
それとも、自分自身が腹落ちしているか。
この違いが、
組織の文化、対話の質、そして未来を決定づけます。
静かな国が教えてくれた、マネジメントの本質
ブルネイの街を歩きながら、
私は自分自身に問いを投げかけていました。
「マネージャーとして、自分はどれだけ自分を相対化できているだろうか。」
「守られた立場に、無自覚に安住していないだろうか。」
旅行は、
非日常を楽しむためだけのものではありません。
時に、経営者・管理職としての自分の在り方を、
静かに照らし返してくれる機会にもなります。
今回のブルネイ滞在は、
マネジメントの本質と、
リーダー教育の重要性を、改めて考え直すきっかけとなりました。
※本記事で触れた「自己基盤力」は、
株式会社2E Consultingが提供する各種研修・支援の中核概念です。
リーダーが自らを整え、組織に健全な空気を生み出すための土台として、
今後も発信を続けていきます。
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