―管理職研修で解き明かすコンフォートゾーンと、未来へ踏み出す3つの条件(Will×Can×Must)
「やります」
「分かりました」
「検討します」
部下がそう言ったにもかかわらず、翌週になっても何も変わっていない。
管理職なら、一度は経験する場面ではないでしょうか。
正直、しんどい瞬間です。
裏切られたような気持ちになることすらあるかもしれません。
しかし、ここで押さえておきたい重要な前提があります。
それは——
部下が動けないのは「やる気がない」からではないということです。
多くの場合、起きているのは「怠け」ではなく、人間の脳として極めて自然な反応です。
この構造を理解することが、管理職研修において非常に重要なテーマになります。
なぜなら、構造を知らないまま「叱咤」や「圧」を強めるほど、現場はさらに動かなくなるからです。
キーワードは「コンフォートゾーン」:脳は“外側”を危険として扱う
コンフォートゾーンとは、
自分にとって「安心・安全・慣れている」と感じる領域のことです。
たとえば、次のようなものが入ります。
- いつもの仕事のやり方
- 慣れた役割や担当領域
- 今の評価水準(下がらない範囲の動き方)
- 変化の少ない人間関係
- これまでの成功体験(得意な型)
人間の脳は、この範囲を必死に守ろうとします。
なぜなら、コンフォートゾーンの外に出ることを、脳は瞬時に「危険」と認識するからです。
進化の歴史を考えれば当然です。
未知の環境は、生存リスクを伴っていました。
その“名残”が、現代のビジネス環境でも働いているのです。
「分かりました」と言っても動けない理由:行動の前に“防御”が起きている
コンフォートゾーンの外に出るとは、具体的にはこういうことです。
- 新しい役割を担う
- 未知のプロジェクトに挑戦する
- 自分の弱みと向き合う
- 失敗のリスクを取る
- 周囲の期待に応える形で成長を求められる
このとき脳は、本人が自覚するよりも前に、次のような判断をします。
- 「危険かもしれない」
- 「評価が下がるかもしれない」
- 「失敗するかもしれない」
- 「自分の無力さが露呈するかもしれない」
その結果、表面上の現象としてこう見えます。
- 先延ばしする
- 急に忙しくなる(やるべきことが増える)
- 言い訳が増える
- 着手しないまま時間が過ぎる
ここで大切なのは、これは意志の弱さではないということです。
「現状に戻ろうとする力」が働いているだけ。
つまり、脳が“安全確保”を最優先している状態です。
この理解を持つだけで、管理職の表情が変わります。
怒りが、理解に変わるからです。
(この“現状維持の力”については、ホメオスタシスとして別記事で整理しています)
→ 部下が動けないのは「怠け」ではない|ホメオスタシス(現状維持本能)と1on1の本質
モチベーションの正体:上げるものではなく「ゾーンの向き」で決まる
「モチベーションをどう上げればいいですか?」
管理職研修で頻出の問いです。
しかし、モチベーションを「上げる」発想だと、いずれ限界が来ます。
なぜなら、人は刺激に慣れるからです。
ここで押さえるべき結論はシンプルです。
モチベーションは、コンフォートゾーンの位置によって“向き”が決まる。
- 現状がコンフォートゾーン
→ 現状に戻ろうとする力が働く - 未来がコンフォートゾーン
→ 未来に向かわないと気持ち悪くなる
つまり、モチベーションとは「気合」ではなく、
ゾーンがどちらにあるか(現在か、未来か)で決まるものです。
この考え方は、以下の記事の内容とも接続しています。
→ モチベーションは「上げるもの」ではない|管理職研修で解き明かす内発的エネルギーの本質
Will・Can・Mustは“整理フレーム”ではない:未来を安全にする「3つの条件」
Will・Can・Mustは、単なる思考整理の枠組みではありません。
管理職研修で強調するのは、もっと実務的な意味です。
Will・Can・Mustは、コンフォートゾーンを「現状」から「未来」へ移すための3つの条件。
この3つが揃ったとき、脳は未来を「安全」と認識し始めます。
ここから先は、スキル論というより“脳の設計”です。
条件① Will:心からワクワクすること(未来への引力)
義務感だけでは、人は続きません。
- 評価のため
- 上司の期待のため
- 会社の命令のため
これらでも短期的には動きます。
しかし、長期の行動変容にはつながりにくい。
必要なのは、
「やらなきゃ」ではなく、「やってみたい」という感情です。
Willは未来への“引力”。
1on1で大切なのは、いきなり大きな夢を聞くことではなく、
小さなワクワクの断片を拾うことです。
条件② Can:「できそう」という感覚(自己効力感)
どれだけWillがあっても、
「自分には無理だ」と感じた瞬間、人は止まります。
必要なのは、完璧な自信ではありません。
- 少し背伸びすれば届きそう
- 過去の経験を活かせそう
- サポートがあればできそう
この“できそう感”が、自己効力感です。
そして自己効力感は、承認と具体化によって育ちます。
この土台が弱いと、Willがあっても動けない。
心理的な土台については、以下の記事で整理しています。
→ 自己肯定感と自己効力感がなければ、人は動けない|管理職研修で扱う1on1の心理的土台
条件③ Must:意味と貢献(未来に居続ける理由)
人は、自分のためだけでは折れやすい生き物です。
しかし、意味づけが入ると踏みとどまれる。
- チームのため
- 顧客のため
- 後輩のため
- 社会のため
Mustは、未来に居続けるための“理由”。
管理職研修では、このMustを「組織の目的」や「顧客価値」とつなぐ設計を行います。
3つが揃うと何が起きるか:未来が“普通”になっていく
Will(理想)
Can(できそう)
Must(意味)
この3つが揃ったとき、コンフォートゾーンは自然に未来へ移動します。
すると、状態が変わります。
- 行動しないほうが違和感になる
- 挑戦している状態が普通になる
- モチベーションが勝手に持続する
ここで起きているのは、「やる気が上がった」ではありません。
未来が安全になっただけです。
1on1の本質は「ゾーン移動」を支えること:押すのではなく、設計する
1on1は行動管理の場ではありません。
気合を入れる場でもありません。
1on1の本質は、
Willを見つけ、Canを育て、Mustとつなぐことで、部下のコンフォートゾーンを未来へ移すことです。
そしてこの対話が成立するには、前提があります。
それが、信頼関係(ラポール)と、承認、傾聴です。
- 未来の話をする前に、安心が必要
- 安心の前に、信頼が必要
- 信頼はテクニックではなく上司の在り方で決まる
この前提は、以下の記事とセットで読むと理解が深まります。
→ ラポール(信頼関係)がなければ、1on1は機能しない
→ 承認とは何か|すべてのコミュニケーションの前提にあるもの
→ 傾聴とは何か|相手の人間的な側面に、純粋に興味を持つこと
明日から使える「3つの問い」:Will・Can・Mustを同時に立ち上げる
次の1on1で、ぜひ試してみてください。
- 「それ、どこにワクワクがありますか?」(Will)
- 「どの部分なら、できそうですか?」(Can)
- 「それができたら、誰の役に立ちますか?」(Must)
この3つが揃った瞬間、部下の表情が変わることがあります。
それは、未来が安全に感じられ始めたサインです。
組織全体へのインパクト:個人のゾーン移動が文化を変える
コンフォートゾーンが未来へ移る人が増えると、組織の現象が変わります。
- 挑戦が文化になる
- 改善が自然になる
- 学習スピードが上がる
- 主体性が連鎖する
管理職研修の目的はスキル付与ではありません。
組織のコンフォートゾーンを未来側へ移すことです。
その起点はいつも、管理職の関わり方にあります。
「1on1がうまくいかない」問題の根っこが自己基盤力にある、という話ともつながります。
→ 1on1がうまくいかない本当の理由|管理職研修で最初に整えるべき「自己基盤力」とは何か
まとめ
- 人はコンフォートゾーンの外に出ると不安を感じる
- 行動できないのは意志の弱さではない
- モチベーションは「ゾーンの位置」で決まる
- Will・Can・Mustが未来移動の3条件
- 1on1はゾーン移動を支える対話の場
部下を変える前に、構造を理解する。
それが、管理職としての第一歩です。
よくある質問(FAQ)※最後に3つ
Q1. コンフォートゾーンはどうすれば広がりますか?
Will・Can・Mustの3要素を揃えることで、脳が未来を安全と認識し、自然に広がります。ポイントは「気合で外に出す」のではなく、未来側に“安全基地”をつくることです。
Q2. 管理職研修で本当に行動変容は起こせますか?
起こせます。重要なのは「スキル研修」単体ではなく、自己基盤力・信頼関係・承認/傾聴・問いの設計をセットで扱い、現場で回る仕組みに落とすことです。
Q3. Willが見つからない部下にはどうすればいいですか?
大きな夢を聞くのではなく、「少しでも面白かった瞬間」「抵抗なく取り組めた作業」など小さな断片から拾うのが有効です。Willは最初から大きくなくて構いません。
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