はじめに:その「忙しさ」は、本当に前進ですか?
「今日も一日、忙しかった」——。
そう感じながら帰路につく管理職の方は、少なくないのではないでしょうか。朝から夕方まで、トラブル対応、会議、顧客からの急な要望に追われ、気がつけば一日が終わっている。翌朝にはまた、同じサイクルが始まります。
ここで一つ、問いかけたいことがあります。
あなたの組織は、今日、「どこに向かって」動いていましたか?
この問いに即答できる管理職は、実はそれほど多くありません。なぜなら、忙しさの中にいると、「動いている」ことを「進んでいる」ことと錯覚してしまうからです。
当社の管理職研修でも、この問いからスタートします。そして多くの受講者が、立ち止まって考えることの大切さに気づかれます。本記事では、目標設定が不在の組織で何が起こるのかを構造的に捉え、目標設定がなぜマネジメントの「出発点」となるのかを解説します。
目標設定がないとき、組織では何が起こるのか
目標設定がなされていない状態とは、言い換えれば「判断基準がない状態」です。
判断基準がなければ、組織には次のような現象が起こります。
- 重要そうに見える仕事から、場当たり的に手をつけてしまう
- 声の大きい人の意見に引っ張られ、優先順位が歪む
- 目先の問題に追われ、本来取り組むべきことが後回しになる
こうした現象は、どの組織でも起こりえます。そして厄介なことに、当事者はその構造に気づいていないケースがほとんどです。なぜなら、全員が「一生懸命やっている」からです。
一人ひとりが違う方角を向いて全力で走っている組織を想像してみてください。エネルギーの総量は大きいのに、チームとしてはほとんど前に進んでいない。これが「忙しいのに成果が出ない」の正体です。
COMPARISON
目標設定がある組織 vs ない組織
| 観点 | 目標設定がない組織 | 目標設定がある組織 |
|---|---|---|
| 判断基準 | 場当たり的・声の大きい人に依存 | 共通の座標軸に基づく一貫した判断 |
| エネルギーの方向 | 各自がバラバラの方向に全力疾走 | 一つの方向にベクトルが揃う |
| 優先順位 | 目先の問題に追われ後手に回る | 「やること」と「やらないこと」が明確 |
| 成果の実感 | 忙しいのに前進している実感がない | 進捗が可視化され達成感がある |
| 育成・評価 | 基準が曖昧で場当たり的 | 目標を起点に一貫した育成と評価 |
個人の努力不足ではなく、組織に「北極星」がないことによって生まれる構造的な問題なのです。
目標設定とは「共通の座標軸」をつくること
では、目標設定とは何でしょうか。
「売上前年比110%」「不良率0.5%以下」——。こうした数値を思い浮かべた方もいるかもしれません。数値はもちろん大切ですが、それだけでは目標設定の本質を捉えたことにはなりません。
管理職研修でお伝えしている目標設定の本質は、次のように定義できます。
目標設定とは、「ありたい姿(未来)」を起点に、今やるべきことを決めるための基準をつくることである。
未来の理想の状態を先に描き、そこから逆算して、今この瞬間に何をすべきかを選び取る。つまり目標設定とは、「未来から現在を引き戻す力」を組織に与える行為なのです。
適切な目標設定がなされた組織では、やるべきことが明確になります。それと同時に、「やらないこと」も決められます。優先順位が定まるからこそ、意思決定のスピードが上がり、組織全体に推進力が生まれるのです。
目標設定はマネジメントの「出発点」である
ドラッカーは、企業の目的を「顧客の創造」と定義しました。利益は目的ではなく、顧客のニーズを見つけ、それを満たした結果としてもたらされるものです。
そして、ドラッカーが述べたマネジメントの本質は、「人を介して成果を最大化する技術」です。一人ひとりの社員の能力を引き上げ、最大限に発揮させ、個人では到達できない成果をチームで実現する。それがマネジメントの核心です。
ここで重要なのは、目標設定が曖昧なままでは、マネジメントのあらゆる活動が機能しないという事実です。
人材育成の方向性は、目標設定によって決まります。1on1ミーティングで何を話すかも、目標設定によって焦点が定まります。(関連記事:MBOの本来の姿と「Self-Control」)評価の基準も、目標設定なくしては定められません。
目標設定が曖昧なままだと、これらの活動はすべてバラバラに動き、場当たり的になります。メンバーは「何を頑張ればいいのかわからない」状態に置かれ、管理職は「何を基準に評価すればいいのかわからない」状態に陥ります。
逆に言えば、目標設定が明確になった瞬間に、組織のあらゆる活動がひとつの線でつながり始めます。育成も、対話も、評価も、すべてが同じ「ありたい姿」に向かって有機的に機能し始めるのです。
FRAMEWORK
目標設定を起点としたマネジメント活動の全体像
管理職研修で伝えている「管理職に求められる力」
当社の管理職研修では、目標設定の技術を管理職の「中核技術」と位置づけています。
管理職に求められるのは、「与えられた目標をこなす力」ではありません。
「自ら目標設定を行い、メンバーの目標設定を支援する力」——これこそが、管理職としての価値を決定づける力です。
組織の「ありたい姿」を描き、メンバー一人ひとりの「ありたい姿」と重ね合わせること。それが管理職にとっての目標設定です。
もし今、「忙しいのに成果が出ない」と感じているならば、それは個人やメンバーの問題ではなく、組織に明確な目標設定がないことが原因かもしれません。まずは立ち止まり、「私たちの組織は、どこに向かっているのか」という問いに向き合うことから始めてみてはいかがでしょうか。
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