管理職研修で見直したい「指示の出し方」
―子育てと同じ、”早くしなさい”が思考を止める理由―
犯罪心理学者の出口保行先生が、非行少年の行動特性を分析した中で、非常に興味深い指摘をされています。
それは、「早くしなさい」という言葉が、子どもの”未来を考える力”を弱らせてしまうというものです。
一見すると、しつけとして自然な言葉です。多くの親が、時間に追われる中で日常的に使っているのではないでしょうか。
しかし、この言葉が繰り返されることで、子どもの中にある変化が起きていきます。それは、「自分で考えて動く力」が少しずつ失われていくという変化です。
子どもに起きる変化
「早くしなさい」と言われたとき、子どもは”急ぐこと”には意識が向きます。
一方で、「なぜ急ぐ必要があるのか」を考えることはありません。
親の側に悪意はありません。むしろ、子どもに遅刻してほしくない、周囲に迷惑をかけてほしくないという思いやりからの言葉であることがほとんどです。しかし、受け取る側にとっては、「理由は分からないが、とにかく急げ」という信号になっています。
この状態が続くと、次のような傾向が生まれます。
- 理由を考えずに動く
- 言われたことはやるが、それ以上はやらない
- 自分で判断する場面で止まる
つまり、「考える習慣」が弱くなっていきます。
短期的には問題なく見えるかもしれません。しかし、環境が変わったときや、正解が用意されていない場面で、対応できなくなります。出口先生が非行少年に共通して見出した特性も、まさにこの「未来を想像する力の欠如」でした。
同じことが、職場でも起きている
この話は、子育てに限ったものではありません。
実は、管理職研修の現場でも、同じ構造が頻繁に見られます。
例えば、日常的に使われている指示です。
「これ、やっておいて」
「先に進めておいて」
「急ぎで対応して」
これらはすべて、「何をやるか(WHAT)」だけを伝える指示です。
この指示を受けた部下は、作業には着手できます。しかし、「なぜそれをやるのか」は分からないままです。目の前のタスクを「言われた通りに処理すること」が仕事になり、その背景にある目的や意図には意識が向きません。
その結果、次のような状態が生まれます。
- 指示された範囲のことしかやらない
- 優先順位を自分で判断できない
- 違和感があっても、そのまま進める
仕事は進んでいるように見えますが、「考えながら働く状態」にはなっていません。
これは、先ほどの子どもとまったく同じ構造です。
当社のブログ「What型思考とWhy型思考の使い分け」でも解説していますが、What型の思考に偏った状態では、目の前の作業は回っても、変化や課題に対応する力が育ちません。
WHAT型指示が生む組織の限界
当社では、このような指示を「WHAT型指示」と呼び、注意すべきポイントとして共有しています。
WHAT型指示は、短期的には効率的に見えます。指示通りに動くため、業務は回ります。上司にとっても説明の手間が省け、スピード感を持って仕事を進められるように感じられます。
しかし、その状態が続くと変化が出てきます。
- 部下が自分で考えなくなる
- 上司の指示がないと動けなくなる
- 問題が起きても判断できない
結果として、「自走できない組織」が出来上がります。
この変化は徐々に進みます。日々のやり取りの積み重ねによって、少しずつ思考する力が弱くなっていきます。そして、いざ想定外の事態が起きたときに、その影響が一気に表面化します。上司が不在のとき、前例のないトラブルが起きたとき――「指示待ち」が常態化した組織では、誰も動けなくなるのです。
4タイプの企業分類と課題解決力の関係で紹介しているように、組織の課題解決力は、日常のマネジメントの質に大きく左右されます。WHAT型指示が常態化した組織は、環境の変化に弱く、問題が発生してから後手に回る傾向があります。
人を育てるとは、「意味」を渡すこと
では、人を育てるとは何でしょうか。
それは、行動を管理することではありません。
本質は、「意味を理解した上で行動できる状態」をつくることです。
そのために必要なのが、「WHY(なぜ)」を伝えることです。
WHY→HOW→WHATで進める課題解決フローでも詳しく述べていますが、WHYを起点にすることで、部下は「何をやるか」だけでなく「どうやるか」まで自分で考えられるようになります。
例えば、同じ依頼でも伝え方を変えるだけで、受け手の動きは変わります。
このように「なぜ」が共有されると、受け手は自分で考え始めます。場合によっては、「それなら、こういう構成のほうが伝わりやすいのでは?」と、より良いやり方を提案してくることもあります。
これは単なるコミュニケーションの工夫ではありません。WHYを伝えるとは、部下に「判断の軸」を渡すことです。軸があれば、想定外の状況でも自分で考え、行動できるようになります。逆に、WHYが欠けたまま業務を進めると、「問題」と「課題」の違いすら認識できない状態に陥ります。何が起きているのかは分かっても、「だから何をすべきか」が見えないのです。
管理職研修で鍛えるべき本質
管理職研修というと、スキルやフレームワークに目が向きがちです。もちろん、MECE・構造的思考やKGI・KPIの目標設定といったスキルは重要です。
しかし、本質的に重要なのは、「部下の思考をどう引き出すか」という視点です。どんなに優れたフレームワークを学んでも、それを部下に伝えるときの「指示の出し方」が変わらなければ、組織の行動は変わりません。研修で学んだ知識が現場で活きるかどうかは、日常の言葉の使い方にかかっています。
その起点になるのが、日々の指示の出し方です。
WHATだけを伝えるのか。
WHYまで伝えるのか。
この違いが、部下の成長スピードと組織の自走力を大きく左右します。
「管理職は監督である」という考え方があります。監督の仕事は、自らプレーすることではなく、選手が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることです。WHYを伝える指示は、まさにこの「監督としての関わり方」の第一歩です。
まとめ
「早くしなさい」という言葉は、子どもに対してだけでなく、職場でも同じ影響を持ちます。
理由が共有されないまま行動を求められる環境では、人は考えなくなります。
そしてそれは、そのまま組織の力の低下につながります。
人を育てるとは、行動を指示することではなく、考える力を引き出すことです。
その第一歩は、「何をやるか」ではなく、「なぜやるのか」を伝えること。
子育てと同じように、日々の関わり方が、人と組織の未来をつくっていきます。
まずは今日、ひとつの指示に「なぜ」を添えることから始めてみてはいかがでしょうか。
可視化しませんか?
無料のマネジメント診断で、組織の現在地と強化すべきテーマが分かります。
コメント