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「カラスの家」で気づいた、組織を変える”たった一つの習慣”―管理職研修と1on1に通じる、関係性の本質

管理職研修で本当に伝えるべきこと|「カラスの家」で気づいた組織を変える”たった一つの習慣”

「カラスの家」で気づいた、組織を変える”たった一つの習慣”
―管理職研修と1on1に通じる、関係性の本質―

管理職研修で最初に伝えるべきは、スキルでも理論でもない。
「人間として向き合う」という、たった一つの姿勢である。

先日、ふと思い立って、大学時代に剣道部で通っていたカラオケ居酒屋「カラスの家」に立ち寄った。

当時は、稽古終わりに仲間たちと大勢で押しかけ、声が枯れるまで歌い、語り、笑い合った場所だ。あの頃は、ただただ楽しくて、深く考えることもなく通っていた。しかし今になって訪れると、不思議と別の意味を持って迫ってくる。

懐かしい扉を開けると、変わらぬ笑顔で迎えてくれたのは、マスターの「カラスのおばちゃん」だった。

いつもは仲間と一緒に行くことが多いが、この日は珍しく二人きり。ゆっくりと腰を据えて話す機会となった。そしてこの何気ない時間が、管理職研修で私が最も大切にしているテーマを、改めて鮮やかに浮かび上がらせてくれた。

「長年の関係」でも、人はお互いをほとんど知らない

おばちゃんは、私が長年の吉田拓郎ファンであることを――実は、知らなかった。

そして同時に、私自身も、おばちゃんのことをほとんど知らなかったのだ。何十年も通っている店なのに、である。

「哲郎くん、拓郎とか歌うの?」

そんな何気ない一言から会話が始まり、初めて、私が吉田拓郎の大ファンであることを伝えた。

「じゃあ歌ってよ!」

その一言でスイッチが入り、私は拓郎の名曲を次々と歌った。「結婚しようよ」「旅の宿」「落陽」――一曲歌うたびに、おばちゃんは手を叩き、目を輝かせながら喜んでくれる。

そして、こう言った。

「そんな一面があるなんて、知らなかったよ!」

その瞬間、私はハッとした。

――これは、お互い様だ。

私は、おばちゃんの人生を知らなかった。おばちゃんも、私のことを知らなかった。これまでの私は、いつも仲間と一緒に来て、賑やかに飲み、歌い、帰るだけだった。

「関係は長い」のに、「関係は浅い」。

これは、職場の人間関係でも頻繁に起きている現象だ。管理職研修の現場でこの話をすると、多くの受講者が深くうなずく。

しかし、この日は違った。二人で、ゆっくり話した。たったそれだけのことだ。しかし、その”たったそれだけ”で、初めて見えるものがあった。

長い時間ではなく、「深い時間」が関係を変える

「この店、1982年からやってるんだよ」「もともとは電気屋だったのよ。主人がカラオケ好きでね…」

そんな話も、すべて初めて聞くものだった。

ご主人が早くに他界されて、おばちゃんが一人で店を継いだこと。そこに至るまでの葛藤や覚悟。どれも、これまで一度も聞いたことがなかった話だった。

そのとき、強く感じたことがある。

この体験から得た気づき

長い時間を共有していても、関係が深まるとは限らない。むしろ、短い時間でも、しっかり向き合えば、関係は一気に深まる。関係性を変えるのは「時間の長さ」ではなく「向き合い方」なのだ。

この気づきは、管理職研修を通じて企業の組織課題に向き合う中で、何度も実感してきたことと重なっていた。

管理職研修の現場で起きている、まったく同じこと

この体験は、そのまま職場の人間関係に重なる。

私が管理職研修で必ず最初に行うワークに、「プチハッピーの共有」がある。

「最近あった、ちょっと嬉しかったことを話してください」

たったこれだけのシンプルな問いだ。しかし、このワークを行うと、必ずと言っていいほど、受講者からこんな声が上がる。

「そんな一面があるとは思いませんでした」

「意外でした」

「少し距離が縮まった気がします」

普段、同じ職場で働いているにもかかわらず、お互いのことをほとんど知らない。業務の話しかしない関係では、その人の”人間性”に触れることができないからだ。

管理職研修の受講者は、ほとんどが「部下との接し方」に何らかの課題意識を持っている。しかし、多くの場合、その課題の根本にあるのは「スキル不足」ではなく、「関係性の浅さ」である。「プチハッピーの共有」という何気ないワークが効果を発揮するのは、この「関係性の浅さ」を解消する入口になるからだ。

管理職研修の現場から

「プチハッピーの共有」ワーク後のアンケートでは、受講者の大多数が「同じ職場の人の知らなかった一面を知れた」と回答。たった数分の自己開示で、研修の場の空気が一変する。この体験が、その後の管理職研修の学びの土台になる。

1on1がうまくいかない本当の理由

最近、企業からよく相談を受けるテーマの一つが「1on1がうまくいかない」というものだ。

話を聞いてみると、多くの場合、1on1が「業務進捗の確認の場」になってしまっている

今のタスクはどう? 進捗は? 課題は?

もちろん、これも重要だ。しかし、それだけでは「関係性」は深まらない。なぜなら、それは”仕事の情報交換”であって、”人間同士の接触”ではないからだ。

管理職研修で実践する「1on1の構造転換」

管理職研修では、この1on1の課題を解決するために、面談の構造そのものを見直すことを提案している。具体的には、1on1の冒頭5分を「業務外の対話」に充てるという方法だ。

「週末、何していた?」「最近ハマっていることはある?」――こうした問いかけ一つで、1on1の質は大きく変わる。管理職研修を受講した管理職が現場でこれを実践すると、部下から「1on1が楽しみになった」という声が上がることも珍しくない。

1on1を変える3つの問いかけ

① 「最近、嬉しかったことは?」
ポジティブな自己開示を促し、会話のトーンを柔らかくする。

② 「今、気になっていることはある?」
業務に限定しないオープンな問いで、本音を引き出しやすくする。

③ 「自分にも似た経験がある」
上司から自己開示をすることで、心理的安全性を高める。

重要なのは、これらが「テクニック」ではなく「姿勢」であるという点だ。管理職研修では、問いかけの「型」を教えると同時に、その土台にある「人として向き合う」という姿勢を繰り返し伝えている。

自己開示が関係性を変える心理学的根拠

では、なぜ「業務以外の話」や「自己開示」が重要なのか。ここには、心理学的な裏付けがある。

ザイオンスの単純接触効果(熟知性の原則)

人は、接触回数が増えるほど、その対象に対して好意を持ちやすくなる。重要なのは、「内容」よりも「接触そのもの」であるという点だ。

つまり、完璧な会話である必要はない。短くてもいいから、繰り返し接触すること。それだけで、人は徐々に心を開いていく。

自己開示の返報性

しかし、ここでもう一つ重要な心理メカニズムがある。それが「自己開示の返報性」だ。人は、相手が自分の内面を打ち明けてくれたとき、自分も同じように内面を開示しようとする傾向がある。

管理職研修でこの原理を伝えると、多くの受講者が「だから部下が心を開いてくれなかったのか」と気づく。上司自身が自己開示をしていなければ、部下もまた心を閉ざしたままだ。返報性は、上司の側から働きかけなければ始まらない。

「人間的な側面」が親近感を生む

さらに重要なのが、「相手の人間的な側面を知ったときに、親近感が一気に高まる」という点である。

単に顔を合わせる回数が増えるだけでは、関係性は深まらない。「この人はどんな価値観を持っているのか」「どんなことに喜び、どんなことで悩むのか」――そうした”人間としての輪郭”が見えた瞬間に、人は初めて相手に対して親近感を持つ。

接触の「量」を増やすだけでなく、接触の「質」を高める。その鍵が、「人間的な側面の共有」――つまり自己開示なのである。

管理職研修で効果を出すための自己開示の方法

では、どのような自己開示が有効なのか。ここで重要なのが、「何を開示するか」である。

成功体験ではなく、「失敗」と「葛藤」を語る

多くの管理職は、無意識のうちに「成功体験」を語ろうとする。しかし、それでは関係性は深まらない。なぜなら、それは「評価されるための情報」だからである。

人は、完璧な人には共感しない。むしろ、共感を生むのは、「うまくいかなかった経験」や「葛藤」である。

「実は昔、大きな失敗をして」

「あの時は本当に悩んで」

「自信を失ったこともあって」

こうした話に触れたとき、人は初めてこう感じる。「この人も人間なんだ」と。

管理職研修では、受講者に「過去の失敗体験」を共有してもらうワークを取り入れている。最初は抵抗を感じる受講者も多い。しかし、実際にやってみると、場の空気が一気に温かくなる。「完璧な上司」の仮面を外した瞬間に、人と人としてのつながりが生まれるのだ。

「カラスの家」のおばちゃんが教えてくれたこと

思えば、おばちゃんが語ってくれた話もまさにそうだった。店を始めた経緯、ご主人を亡くした後の苦労、それでも店を続けてきた覚悟。それは成功談ではなく、葛藤と再生の物語だった。

だからこそ、私はその話に深く心を動かされた。そしておばちゃんのことを、初めて「一人の人間」として理解できた気がした。

自己開示とは「弱さを見せる勇気」である

自己開示とは、単なる情報提供ではない。それは、「自分の未完成さを差し出す行為」である。だからこそ、勇気がいる。

しかし、この一歩を踏み出したとき、関係性は劇的に変わる。

上司が完璧な存在である限り、部下は本音を話さない。しかし、上司が「揺らぎ」を見せた瞬間、部下もまた、自分の内面を語り始める。これが、先に述べた「自己開示の返報性」の力だ。

管理職研修の中で、あるベテラン管理職がこんなことを語ったことがある。

「30年間、部下の前では常に”強い上司”でいなければならないと思っていた。でも、自分の失敗を話してみたら、部下が初めて本音で話してくれた。もっと早くこうすればよかった」

部下育成において、管理職に求められるのは「完璧さ」ではない。「人間であること」を恐れない姿勢である。

心理的安全性と管理職研修――自己開示は上司から始める

近年、多くの企業が「心理的安全性」をキーワードに組織づくりを進めている。心理的安全性とは、チームの中で自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態のことだ。

管理職研修でこのテーマを扱うとき、私が必ず伝えることがある。

心理的安全性は、「制度」ではつくれない。「人」がつくるものだ。

そして、その起点となるのは、チームリーダーである管理職自身の自己開示である。

部下に「何でも話していいよ」と言うだけでは、心理的安全性は生まれない。部下は上司の「言葉」ではなく「行動」を見ている。上司が自分の弱さやためらいを率直に語る姿を見て、初めて「ここでは本音を話しても大丈夫だ」と感じるのだ。

部下育成の出発点は「上司の自己基盤力」

部下に「話してほしい」と思うのであれば、まずは自分が開く。この姿勢こそが、管理職研修で伝えている「自己基盤力」である。

自己基盤力とは、自分自身の価値観、強み、弱みを理解し、それを率直に表現できる力のことだ。これは部下育成の出発点であり、管理職としてのあらゆるスキルの土台になるものである。

管理職研修を人事担当者として企画する際、「どのスキルを教えるか」に注目しがちだ。しかし、スキルを活かすための「関係性の土台」がなければ、どれだけ優れたスキルも機能しない。だからこそ、管理職研修の設計において、自己開示と関係性構築のプロセスを最初に組み込むことが重要になる。

管理職研修の本質は「技術」ではなく「関係性」にある

管理職研修というと、論理的思考や問題解決力、コーチングスキルといった”技術”に目が向きがちである。もちろん、これらは管理職にとって不可欠な能力だ。

しかし、それらを機能させる前提となるものがある。それが、「関係性」である。

そして、その関係性は、「どれだけ人間的な側面を共有できているか」によって決まる。

管理職研修の設計で意識すべき3つの層

第1層:関係性の構築
自己開示・相互理解を通じて、信頼の土台をつくる。

第2層:対話スキルの獲得
1on1、フィードバック、コーチングなどの手法を学ぶ。

第3層:組織マネジメントの実践
目標設定、評価、チームビルディングを実行する。

第1層がなければ、第2層・第3層は機能しない。管理職研修の設計は、この順序を守ることが成果につながる。

明日からできる、たった一つのアクション

もし、あなたが部下との関係に悩んでいるのであれば、あるいは管理職研修の効果をもっと高めたいと考えているのであれば、難しいことを考える必要はない。

まずは、たった一つ。

「自分の人間的な側面を、少しだけ見せてみること」

成功ではなく、失敗。強さではなく、葛藤。
そこにこそ、人は共感し、関係性が生まれる。

「カラスの家」での何気ない時間が、改めてその本質を教えてくれた。

管理職研修で学ぶべき最も大切なことは、フレームワークでも理論でもない。

管理職とは、人を動かす前に、人と向き合う存在である。

その第一歩が、「自己開示」だ。あなたが開けば、相手も開く。この小さな勇気が、チームの関係性を変え、組織の空気を変えていく。

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Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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