SERIES|評価者の旅 ── 裁定から成長支援へ、管理職研修10講 第1回
「評価面談、得意ですか?」──管理職の方にこう尋ねると、苦笑いが返ってくることがほとんどです。「正直、毎回しんどいんですよね」「部下の顔がだんだん曇っていくのがつらくて」。管理職研修の現場では、こうした声を数え切れないほど聞いてきました。
評価者研修と言うと、つい「上手な評価のつけ方」「角の立たないフィードバック技法」を学びにいく場だと思われがちです。けれども、評価者として最初に見直すべきは、テクニックでも評価シートの書き方でもありません。あなた自身が、かつて被評価者として何を感じてきたか──その記憶です。
本記事では、全10回でお届けする管理職研修「評価者育成」シリーズの第1回として、評価者としての出発点をご一緒に考えていきます。少しだけ時間をください。あなたがこれまでに受けてきた数々の評価面談を、ゆっくり思い出してみてほしいのです。
「最も納得感があった面談」を思い出す
まず、最も納得感があった面談を思い出してみてください。
どんな上司の、どんな面談でしたか。場所はどこで、何分くらい話したでしょうか。具体的に、上司はあなたに何を言ってくれたでしょうか。
おそらく、こんな共通点があるのではないでしょうか。
- 普段から自分の仕事をちゃんと見てくれている上司だった
- 具体的なエピソードを挙げて、成果を認めてくれた
- 耳の痛いフィードバックも含まれていたが、その内容は期中に何度か聞いていたことで、面談の場で初めて知らされたものではなかった
- 話の中心が「過去の査定」ではなく、「来期、自分がどう成長していくか」だった
- 面談を終えたあと、悔しさや嬉しさはあっても、前を向く気持ちになれた
納得感のある面談は、評価点そのものではなく、「ちゃんと見てくれていた」「これからも一緒に考えてくれる」という確信から生まれます。点数の良し悪しを超えて、人としての関係に支えられた時間だった、と言ってもいいかもしれません。
「最も納得感がなかった面談」を思い出す
次に、最も納得感がなかった面談を思い出してみてください。
これは少しエネルギーのいる作業です。けれども、ここを避けて通ってはいけません。なぜなら、いまあなたの部下が同じ思いをしていないと、誰が言い切れるでしょうか。
納得感がなかった面談には、おそらくこんな特徴があったはずです。
- 期末になって突然、これまで一度も指摘されたことがなかった問題点を告げられた
- 評価点だけが伝えられ、その理由はよくわからなかった
- 上司が、自分の仕事の中身をほとんど把握していないと感じた
- 30分の面談のうち、半分以上を上司が一方的に話して終わった
- 面談を終えたあと、やる気が削がれ、どこか冷めた気持ちになった
このとき、あなたの中で何が起きていたか。たぶん、こうではないでしょうか。「この人は、私の仕事の本当のところを見ていない」「この評価は、運悪く当たったハズレくじみたいなものだ」──そう感じた瞬間に、評価結果は意味を失います。納得感がない評価は、どれほど精緻に算定されていても、動機づけにはつながりません。むしろ、人を組織から遠ざけていきます。
その記憶が、あなたの「羅針盤」になる
ここからが本題です。
過去の二つの記憶──納得感があった面談と、なかった面談──は、評価者の立場に立ったいまのあなたにとって、何より頼れる羅針盤です。難しい理論書や、流行のフィードバック手法より、ずっと実用的です。多くの管理職研修では外部の「正解」を学ぼうとしますが、本当に効くのは、自分の内側にある記憶を掘り起こすことから始めるアプローチです。
問いはたった二つ。
あなたが「納得感があった」と感じた面談で上司がしてくれたことを、いま、あなたは部下に対してできているか。
あなたが「納得感がなかった」と感じた面談で上司がしてしまったことを、いま、あなたは部下に対してしていないか。
正直に向き合ってみると、たぶん少し気まずい気づきが出てくるはずです。「あの上司が嫌だったのに、忙しさのなかで自分も同じことをやっているかもしれない」──そう感じたなら、それはとても健全なスタートラインです。
評価者育成は、新しいスキルを身につけるというより、自分が嫌だったことを、部下に対してしないと決めることから始まります。そしてもう一歩進んで、自分が嬉しかったことを、部下にもしてあげると決める。これだけで、面談の景色は変わります。
今日、できる小さな一歩
最後に、この記事を読んだあと、5分でできることを一つだけ提案させてください。手帳でも、PCのメモでも構いません。次の三つを書き出してみてください。
- 最も納得感があった面談で、上司がしてくれたこと(具体的に3つ)
- 最も納得感がなかった面談で、上司がしてしまったこと(具体的に3つ)
- その差を踏まえて、次の評価面談で自分がやりたいこと/やめたいこと(各1つ)
たったこれだけで、次の面談はまったく違うものになります。
評価とは、本来、人を裁定するための仕組みではありません。人を活かし、組織の長期的な成果を最大化するための営みです。そしてその営みは、評価シートの記入欄からではなく、かつての被評価者だった自分の記憶から始めるのが、最も誠実なやり方だと、私たちは考えています。管理職研修の本質も、まさにここにあると言えるでしょう。
次回は、その評価という営みを根本から問い直します。「評価とは何のためにあるのか」──『裁定』から『成長支援』への転換について、一緒に考えていきましょう。
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