管理職研修において、受講者からよく聞かれる疑問があります。「顧客を絞ると、売上が減ってしまうのではないか」。この疑問に対する明確な回答を用意することが、研修の成否を左右します。
なぜ「顧客を絞る」ことが重要なのか
あるラーメン店の例を考えてみましょう。とんこつ・しょうゆラーメンに加えて焼き鳥、寿司、ピザまで提供する店と、「産地直送・能登の朝どれ魚を使った海鮮ラーメン専門店」とでは、どちらに行きたいと思うでしょうか。多くの方が後者を選ぶはずです。生き方・価値観・ニーズが多様化する現代では、顧客を絞ることでこそ明確な価値を提供できるのです。
管理職が部門戦略を策定する際にも、「あらゆる顧客に対応しよう」とするよりも、ターゲットを絞り込む方が限られたリソースで高い成果を生み出せます。管理職研修でSTP分析を学ぶことは、このような戦略的思考力を養う上で極めて有効です。
STP分析の基本構造
STPとは、Segmentation(市場細分化)、Targeting(標的市場の選定)、Positioning(自社の立ち位置の明確化)の頭文字をとったフレームワークです。市場を「分けて」、「選んで」、「絞る」という三段階のプロセスで構成されています。
「いきなり属性で分けない」― セグメンテーションの落とし穴
講座の中では、ありがちなセグメンテーションの失敗パターンをこう指摘しています。
同じ20代女性でも、学生なのか社会人なのか、バリバリ働きたい人なのか趣味重視なのか、独身なのか家族持ちなのかでニーズは全く違います。いきなり属性からセグメンテーションするのではなく、まず顧客ニーズは何かを考えることが大切です。
年齢・性別・職業といったデモグラフィック変数だけでは、本質的なニーズの違いを捉えきれません。まずニーズを洗い出し、その後にニーズの違いを説明できるセグメンテーション基準を選ぶ。この順序を間違えないことが重要です。
重要なのは、セグメンテーションの前に顧客ニーズを考えるという点です。単に年齢や性別で分けるだけでは意味がありません。たとえば「20代女性」というセグメントでは、学生と社会人、キャリア志向の方と趣味重視の方では根本的にニーズが異なります。自社の商品・サービスにとって意味のある切り口を見つけることが、セグメンテーション成功の鍵です。
「静かな洗濯機」に学ぶ ― ニーズ・価値・機能の切り分け
講座では、1986年にヒットした静かな洗濯機「静御前」の事例をもとに、顧客ニーズの掘り下げ方を解説しています。
よくある答えは「顧客は静かな洗濯機が欲しかった」。でも本当にそうでしょうか。
講座では時代背景から丁寧に紐解いていきます。高度経済成長で都市に人口が流入し、核家族化が進行。1986年には男女雇用機会均等法が施行され、女性の社会進出が加速していました。
団地に住む家庭が増え、平日は忙しく、洗濯を夜や早朝にしたいニーズが高まった。本当の顧客ニーズは「週末に洗濯しなくても済み、家族と過ごす時間を増やしたい」ということかもしれません。
つまり、次のように整理できます。
製品開発ではつい「機能」に意識が向きがちですが、STP分析の出発点は常に顧客ニーズです。この「ニーズ → 価値 → 機能」の順序で考える習慣を、管理職研修でぜひ伝えてください。
セグメンテーションの4つの基準
セグメンテーションには四つの代表的な基準があります。第一に地理的変数(ジオグラフィック)で、国・地域・気候・人口密度などによる分類です。第二に人口動態変数(デモグラフィック)で、年齢・性別・職業・所得・ライフステージなどが含まれます。第三に心理的変数(サイコグラフィック)で、ライフスタイルや価値観に基づく分類です。第四に行動変数(ビヘイビアル)で、購入頻度・購入金額・利用用途といった購買行動に基づきます。
BtoB企業の場合は、業種・業界、企業規模、創業年数といった変数に加え、社風・文化や決裁者の性格といった心理的変数も重要になります。管理職研修では、自社にとってどの変数の組み合わせが最も有効かを受講者自身に考えさせるワークが効果的です。
事例に学ぶ:パナソニック Let’s note の成功
STP分析の好例として、パナソニックのLet’s noteが挙げられます。パソコン市場には「持ち運びが楽」「壊れにくい」「セキュリティが強い」といった法人の外回り向けニーズから、「ゲームを快適に楽しめる」「映画がきれいに見られる」といった個人向けニーズまで、多様なニーズが存在していました。
パナソニックは「外回り×法人」というセグメントに特化し、その他のニーズを潔く捨てるという「選択と集中」を行いました。軽さを実現するために薄さを捨て、長時間バッテリーや太陽光下でも見える高輝度モニタなど、外回りの営業担当者が真に必要とする機能に注力した結果、モバイルノートPC市場で長期にわたりトップシェアを獲得しています。
管理職研修プログラムへの活用ポイント
管理職研修にSTP分析を取り入れる際は、自社の事業を題材にしたグループワークを設計することが効果的です。まず自社の顧客ニーズを洗い出し、それをもとにセグメンテーションの軸を検討させます。次に、どのセグメントをターゲットにすべきかを議論させ、最終的にポジショニングまで一貫して考えさせることで、STP分析の実践力が身につきます。
管理職が自部門のターゲット顧客を明確に定義できるようになることは、チーム全体の活動に方向性を与え、リソース配分の最適化に直結します。ニーズの洗い出しとセグメンテーションを行ったり来たりする試行錯誤のプロセスを体験させることが重要です。
バックオフィスにこそSTP分析が効く ―「後工程=顧客」で考えるセグメンテーション
STP分析は外部顧客向けの手法と思われがちですが、社内の「後工程=顧客」にも応用できます。マーケティングの本質は顧客のニーズを顧客目線で理解し、自社の製品・サービスに活かすこと。この考え方は部署を問いません。
たとえば人事部が研修を設計する際、「全社員向け」と一括りにせず、新卒・中途・管理職・専門職とセグメントを分け、各層のニーズに合ったプログラムをターゲティングする。これはSTP分析そのものです。情報システム部がITリテラシーの異なるユーザー層に対して、マニュアルの粒度やサポート方法を変えることも同じ発想です。
マーケティング視点は、全管理職が持つべき基本的な思考フレームワークです。管理職研修でSTP分析を扱う際は、「あなたの部署の後工程は誰ですか?その人たちをどうセグメントしますか?」という問いかけから始めると、バックオフィス部門の管理職にも自分事として響きます。
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