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指示の「抜け漏れ」を防ぐ視点|管理職研修コラム

■ 論理的コミュニケーション力の5つの力(全7回シリーズ) 第6回

指示の『抜け漏れ』を防ぐ視点

管理職研修・マネジメント研修コラム|全7回シリーズ

著者:山本哲郎 / 株式会社2E Consulting 代表取締役

2026年3月

自分では気づかない「完璧な落とし穴」

管理職の指示で最も危険なのは、実は何だと思いますか?それは「自分では完璧だと思っている指示に、重大な抜けがある」という状況です。多くの管理職は、自分が与えた指示について「これなら部下も分かるだろう」と確信しています。しかし、現実はどうでしょうか。

部下から報告を受けると「こんなはずじゃなかった」「これは想定していなかった」と驚くことがありませんか?これは部下が無能だからではなく、指示側の「視点の狭さ」が原因である場合が少なくありません。あなたの常識が、部下の常識とは限らないのです。あなたの経験が、部下の経験と同じとは限らないのです。

論理的コミュニケーション力の5番目の力である「広げる力」は、この落とし穴を埋めるための力です。視点を広げ、漏れのない指示を与え、部下の自律性を引き出す。それが管理職の真の影響力です。

MECEの4つのパターンで「抜け漏れ」を診断する

「広げる力」の基本概念が「MECE」(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)です。訳すと「漏れなく、ダブりなく」という意味です。指示を与える際、このMECEの原則が守られているかどうかが、抜け漏れを防ぐカギになります。

MECEを達成するには、4つのパターンを意識する必要があります。

パターン1:時間軸で分ける

「このプロジェクトを進める際に、どのタイミングで何を行うか」を明確にしていますか?多くの管理職は「来月までにこれを完成させて」という指示で終わってしまいます。しかし、部下の視点では「来月のどの段階で何を確認すればいいのか」「途中報告はいつ必要なのか」が曖昧なままです。

時間軸で分けるということは、プロジェクト全体を「準備期」「実行期」「確認期」のように段階分けし、各段階での役割と成果物を明確にすることです。これにより、部下は「今、自分は全体のどこにいるのか」を認識でき、主体的に行動できるようになります。

パターン2:プロセス・要素で分ける

営業企画の案件であれば「市場調査」「競合分析」「顧客ニーズ把握」「提案資料作成」のように、成果物に至るまでのプロセスを分解することです。製造部門であれば、製造プロセスの各ステップ、品質管理のチェックポイント、安全管理の各要素というように分けられます。

「良い提案資料を作ってほしい」という指示よりも、「市場調査から提案資料まで、どのようなプロセスを経るのか、各段階でどのような視点が必要か」を示す方が、部下の行動は格段に明確になります。

パターン3:関係者・視点で分ける

施策を実行する際、「顧客側の視点」「自社側の視点」「競合他社の視点」というように、複数の立場から物事を見る必要があります。また「経営層の視点」「現場の視点」「顧客サービス部門の視点」というように、社内でも視点は異なります。

管理職自身が一つの視点で判断したことが、他の視点では全く異なる意味を持つことがあります。「この施策は経営的には正しいが、現場の負担を考えると実現可能性が低い」というように、複数の視点を組み合わせることで、初めて完全な判断ができるのです。部下に指示する際も、「どの視点から考えるべきか」を明示することで、より思考の深さが増します。

パターン4:属性・カテゴリで分ける

顧客を「新規顧客」「既存顧客」「休止顧客」に分けるように、対象を属性やカテゴリで分類することです。商品ラインであれば「高級ライン」「大衆向けライン」「キャラクター商品」というように分ける。従業員評価であれば「成果」「プロセス」「姿勢」という評価軸で分ける。

この分け方によって、「全ての顧客に同じアプローチはできない」「それぞれのセグメントで異なる戦略が必要」という発見が生まれます。管理職がこの視点を持つことで、部下への指示もより具体的で実行可能性の高いものになるのです。

実例に学ぶ:管理職の指示における「抜け漏れ」

ここで、実際にあった事例を紹介しましょう。

【事例1】営業会議資料の作成指示

管理職:「来週の営業会議の資料を作って。成約率を改善する施策をまとめておいて」

部下は資料を作成しましたが、管理職が見ると「なぜこれが入ってるのか」「これが足りない」と修正指示が次々と出ました。

問題:時間軸が不明確(来週のいつ?)、プロセスが不明確(どういう流れで施策を提示するのか)、関係者視点が不明確(営業メンバーの視点?経営層の視点?)、属性分類が不明確(全ての商品が対象?顧客セグメントで分ける?)

【事例2】顧客対応の改善指示

管理職:「顧客満足度を上げるための改善案を出してほしい」

部下から出された案は、顧客満足度には貢献するものの、現場の業務負荷が大幅に増える内容でした。

問題:視点の不完全さ。「顧客視点」だけでは、「現場実現可能性の視点」「コスト効率の視点」が抜けていました。

どちらの例でも、管理職は「指示内容は明確だ」と思っていた点が重要です。しかし、実際には複数の視点から見ると、その指示は部分的で不完全だったのです。

「具体→抽象→抽象→具体」で視野を広げる思考法

では、どのように視野を広げればよいのでしょうか。そこで重要なのが「具体→抽象→抽象→具体」というサイクルです。

まず、具体的な事象から出発します。例えば「顧客からのクレームが増えている」という具体的な問題が起きているとします。

そこから、「要するに何が問題なのか」と抽象化します。「品質のばらつき?対応スピード?説明不足?」と、表面的な現象の背後にある本質を問うのです。さらに「それはなぜ起きているのか」と、より高い抽象度で問い直す。「組織体制の問題?教育不足?プロセス設計の不備?」

そして、その抽象的な問題に対して、「それでは、具体的には何をすべきか」と、再び具体的なアクションに落とし込みます。「新しい研修プログラムを導入する」「チェックリストを改善する」「顧客対応マニュアルを見直す」というように。

このサイクルを何度も回すことで、一つの指示の中に「なぜそれが必要なのか」という背景が含まれるようになり、部下の理解度も深まります。管理職が「それ以外には?」と常に他の可能性を問う癖をつけることで、抜け漏れは自然と減るのです。

具体→抽象→抽象→具体の思考サイクルで視野を広げる概念を示すイラスト
具体→抽象→具体のサイクルで視野を広げる

自分の常識を超えた発想の重要性

視野を広げる際に、最も大切なのは「自分の経験や常識の限界を認識すること」です。管理職は、ある程度の成功経験を積んでいます。だからこそ「このやり方が正解」という固定概念が生まれやすいのです。

しかし、市場は常に変わり、顧客は常に変わり、部下の能力や価値観も多様化しています。「自分が若い頃はこうしていた」「この業界ではこれが当たり前」という発想では、時代に遅れてしまいます。

部下から「別のアプローチはどうでしょうか」と提案されたとき、それを即座に否定するのではなく、「なるほど、そういう視点もあるか」と受け入れる謙虚さ。それが、管理職の視野を広げ、結果として組織全体の視野も広げるのです。

また、異なる部門や異なる年代の人間からの意見を積極的に聞く習慣も大切です。営業部門の人間と製造部門の人間では、同じ課題に対して全く異なる視点を持っています。新入社員の視点と部長の視点も異なります。その違いを理解することで、あなたの指示はより多角的で、より実行可能なものになるのです。

MECEの4つのパターン(時間軸・プロセス・関係者・属性)で抜け漏れを防ぐイラスト
MECEの4つのパターンで指示の抜け漏れを防ぐ

部下にも「広げる力」を身につけさせるために

管理職が視野を広げることは重要ですが、同時に部下にもこの能力を身につけさせる必要があります。なぜなら、部下が「広げる力」を持つことで、チーム全体の思考の質が向上するからです。

そのためには、まず「なぜそう考えたのか」を部下に問う習慣をつけましょう。部下が提案や報告をしてきたとき、「それはいいね。でも、それ以外の視点からはどう見える?」「別のアプローチもあるんじゃないか」と問い直す。これを繰り返すことで、部下は自然と視野を広げる思考を身につけます。

また、異なる視点の人間同士が議論する場を意識的に作ることも有効です。営業と企画、事務と現場、という具合に、異なる立場の人間をミーティングに参加させることで、一つの課題に対して複数の視点から光が当たるようになります。

さらに、「チェックリスト」を活用するのも効果的です。後述しますが、チェックリストは単なる確認ツールではなく、思考の質を高めるツールとしても機能します。

チェックリストの活用:思考の質を高める道具

多くの企業でチェックリストは使われていますが、その活用法は「忘れていないか確認する」程度に留まっていることが多いです。しかし、チェックリストは「広げる力」を養うための強力な道具になります。

以下は、プロジェクト企画書作成時のチェックリスト例です:

プロジェクト企画書チェックリスト(視点の網羅性確認用)

  • 時間軸:開始から終了までの全段階が明記されているか?各段階の目標期日は明確か?
  • プロセス:企画から実行、評価までの全ステップが定義されているか?各ステップでの成果物は何か?
  • 経営層視点:経営方針との整合性は?ROIの想定は?リスク管理は?
  • 現場視点:実現可能性は?必要なリソースと現状のギャップは?人員配置は適切か?
  • 顧客視点:顧客のニーズを満たしているか?顧客の視点で説得力のあるメリット記述か?
  • 競争視点:競合はどう出てくるか?差別化ポイントは明確か?
  • リスク視点:想定されるトラブルは何か?対応策は講じられているか?

このようなチェックリストを使うことで、管理職は指示を出す前に「視点漏れがないか」を確認できます。また、部下にこのチェックリストを示すことで、「どのような視点で考えるべきか」の学習機会にもなるのです。

重要なのは、チェックリストは「やること」を確認するのではなく、「考えるべき視点」を明確にするためのツールだという認識です。

「広げる力」は、部下を信頼する力

最後に、重要な指摘をしておきます。「広げる力」を磨くことは、実は「部下を信頼する」というメッセージを部下に送ることになるのです。

どういうことか。指示を出す際に、詳細な背景、複数の視点、複雑な状況判断まで含めて説明する管理職は、無意識のうちに「部下にはここまで考えさせるべき」というメッセージを発しているのです。反対に、「とにかくこれをやって」と簡潔に指示する管理職は「部下には判断させない、言われたことだけやればいい」というメッセージを発しているのです。

部下の自律性を高めたいなら、視点を広げた指示を心がけてください。その指示の中に「複数の見方が存在すること」「判断には複数の視点が必要であること」が含まれることで、部下の思考力は自然と高まります。

そして、それこそが管理職の真の影響力、つまり「他者影響力」なのです。権力で従わせるのではなく、思考の質を通じて部下を成長させる。その力を「広げる力」は、あなたの中に育ててくれるのです。

管理職研修で「広げる力」を扱うと、多くの受講者が自分の視野の狭さに気づきます。

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Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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