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「自己基盤力」をベースに

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「ラベル付け」ではなく「発見」へ―自己理解の本質と、私たちがMBTI・ストレングスファインダーを中心に置かない理由

管理職研修やコーチングの現場で、よくこの質問をいただきます。
「自己理解のために、MBTIやストレングスファインダーは使わないのですか?」

結論から申し上げると、私たちはこれらのツールを自己理解の中心には置いていません。ただし、それは「否定している」ということではありません。問題はツールの存在ではなく、使い方と位置づけにあります。

本稿では、この問いに対する私たちなりの答えを、管理職研修における自己理解のあり方を軸に、心理学・統計学的な知見も交えながら、「自己基盤力」という考え方とともに丁寧に整理していきます。

なぜ、診断結果に「納得」してしまうのか

「あなたはENTPです」「あなたの強みは最上思考です」

こう言われたとき、多くの人はこう感じます。

やっぱり自分は〇〇だったんだ!

安心する。納得する。どこか腑に落ちた気持ちになる。しかし、冷静に考えてみてください。それは当然のことではないでしょうか。一定の設問に自分で回答した結果が返ってきているだけなのですから、自分の感覚と一致するのはむしろ当たり前です。そこに、何か新たな「発見」があったわけではありません。

問題の本質はここにあります。人間は本来、「分類される存在」ではなく、「意味づけをする存在」です。にもかかわらず、診断結果という外部からのラベルに安心してしまうことで、自分自身で意味を掘り下げるプロセスが止まってしまう。納得感が、思考停止の入り口になり得るのです。

私自身、以前働いていた職場でストレングスファインダーが流行っていた時期がありました。「私は最上思考だから」「あの人は規律性が強いから」という会話が日常になっていました。確かに、結果を見ると「そうかもしれない」と感じる。しかし、ふと気づいたことがあります。あの設問への回答は、そのとき置かれていた環境に大きく左右されているのではないか、と。

実際、半年も経たないうちに自分の結果は大きく変わりました。それにもかかわらず、最初に貼られたラベルはなかなか剥がれない。この経験から、一つの問いが生まれました。

ラベリングは、自己理解も相互理解も、実は妨げているのではないか。

MBTIの心理測定学的な問題

この問いを、心理学・統計学の観点からも見ておく必要があります。

MBTIは1940年代にイザベル・ブリッグスとキャサリン・クック・ブリッグスの母娘によって開発されました。カール・ユングの性格類型論を起点としていますが、ユング理論自体が実証的な検証に乏しく、現代の心理学においては科学的根拠が薄い理論として位置づけられています。

最も大きな問題の一つが、再検査信頼性の低さです。同じ人物が数週間後に再びMBTIを受けると、約50%の確率でタイプが変わるという研究報告があります(McCarley & Carskadon, 1983)。「あなたはINTJです」と診断されても、半年後には「ENFPです」になる可能性が、統計的に2人に1人の割合で起きているのです。

もう一つの根本的な問題は、人間の性格を「二値」で分類することの非科学性です。MBTIは「内向/外向」「直観/感覚」などを二択で分類しますが、実際の心理特性は正規分布に近い連続量として存在しています。つまり、「どちらかに振り切れている人」よりも「中間に多くの人が集まる」のが実態です。その連続的な分布を強制的に二分することで、本来は「どちらの傾向も持っている」人が、どちらか一方のラベルに分類されてしまいます。

さらに、MBTIの結果に対しては「バーナム効果」への懸念も指摘されています。バーナム効果とは、誰にでも当てはまりそうな曖昧な記述を「まるで自分のことだ」と感じてしまう認知バイアスです。占いの結果が「なぜかしっくりくる」のと同じメカニズムで、MBTIの結果説明もこの効果に乗りやすい構造になっています。

現代の性格心理学の主流は、MBTIではなく「ビッグファイブ(OCEAN)モデル」です。開放性・誠実性・外向性・協調性・神経症傾向の5因子で性格を捉えるこのモデルは、MBTIに比べて再検査信頼性が高く、職業パフォーマンスや対人関係との相関も実証されており、学術的な支持を広く得ています。

ストレングスファインダーの功績と限界

ストレングスファインダーは、ポジティブ心理学の流れを汲む「強みベースのアプローチ」として、MBTIとは異なる文脈で生まれました。マーティン・セリグマンらが提唱したポジティブ心理学の中心的な主張、すなわち「弱みを克服するより強みを活かすことが人間の成長につながる」という考え方は、一定の研究的支持を持っています。

その点では、MBTIよりも実践的な有用性があるとも言えます。「何が得意か」に目を向けさせる視点の転換は、特に自己否定感が強い人にとって有効に働くことがあります。

しかし、学術的な問題がないわけではありません。

まず、独立した第三者による再現研究が少ないという点があります。ストレングスファインダーに関する主要な調査研究の多くは、開発元であるギャラップ社が主導しており、利益相反の懸念が払拭できません。また、34資質の因子構造の妥当性についても、独立した研究者から疑問が呈されています(Tett et al., 2017)。

そして、私自身が経験した問題と同じことが、ここでも起きます。再検査信頼性が十分に検証されていないにもかかわらず、一度得た結果が「その人の本質」として扱われてしまう。結果は変わっても、ラベルは変わらない。この非対称性が、自己理解を固定化させる温床になっています。

ラベルは、自己理解を深めるのか、それとも狭めるのか

ここで改めて、ラベリングそのものが持つ心理的な作用について整理しておきたいと思います。

ラベルを与えられると、人はそれを「本質」として捉えやすくなります。「自分は内向型だから人前に出るのは苦手だ」「自分は分析思考が強いから、感情的な関係構築は得意ではない」。こうした自己制限が日常の中で積み重なっていきます。

これは単なる思い込みではありません。心理学では「自己成就予言(Self-fulfilling prophecy)」と呼ばれるメカニズムが知られています。ある特性を「自分の本質だ」と信じることで、その特性に沿った行動が強化され、結果としてその特性がますます強固になっていく現象です。

ラベルが、ラベルを作り出すのです。

また、「本質主義(Essentialism)」という認知傾向も関係しています。人間は他者や自己を「変わらない本質を持つ存在」として捉えやすい傾向があります。これは認知的な省エネとして機能する一方で、人間の本来の可塑性、つまり「変われる力」を過小評価させてしまいます。

さらに重要なのが、相互理解への影響です。「あの人は規律性が強いタイプだから」という理解は、相手を観察するのではなく、ラベルを通して見ることになります。人は変わります。状況によって振る舞いも変わります。にもかかわらず、ラベルによってその変化が見えにくくなる。これは、組織における相互理解を深めているようで、実は固定化させているとも言えます。

なぜ管理職研修で広く使われているのか

ではなぜ、これほど多くの企業が管理職研修をはじめとする人材育成の場で、MBTIやストレングスファインダーを取り入れているのでしょうか。理由はシンプルです。分かりやすく、短時間で盛り上がり、共通言語が作りやすい。参加者の満足度も高くなります。

「正しいから使われている」のではなく、「使いやすいから使われている」のです。

これ自体を責めるつもりはありません。管理職研修の中で対話のきっかけをつくることには、一定の意味があります。しかし、その便利さゆえに「自己理解のツール」として過信されてしまっていることに、私たちは問題を感じています。

加えて、MBTIもストレングスファインダーも、認定資格・研修教材として巨大な産業を形成しています。その商業的な構造が、学術的な批判よりも現場への普及を優先させてきた側面は否定できません。「広く使われている=正しい」という等式が成り立たないことを、ここでは明確にしておきたいと思います。

私たちが考える「自己理解」の出発点

では、私たちは何を起点に自己理解を行うのか。それが「自己基盤力」という考え方です。

自己基盤力とは、自分の価値観を理解し、自分のありたい姿を明確にし、そこに向かって行動し続ける内なる推進力です。重要なのは、この力は外部から与えられるものではなく、自分の内側からしか生まれないという点です。

私たちは、自己理解を以下の積み重ねとして捉えています。

  • 人生で何が起きたか(事実)
  • それをどう感じたか(感情)
  • そこから何を大切にするようになったか(価値観)

この考え方は、心理学的にも支持されています。ナラティブ心理学(Narrative Psychology)では、人間は自分の経験に「物語」として意味を与えることで、自己同一性(アイデンティティ)を形成すると考えます。ダン・マクアダムズらの研究は、自分の人生を一つの物語として語る能力が、心理的健康や自己効力感と深く関連していることを示しています。

また、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)における「価値の明確化」のアプローチも、同様の方向性を持っています。自分が何を大切にするかを過去の経験から丁寧に引き出すことで、行動の動機が外部の評価ではなく内側から生まれるようになる。これが、持続的な変化の土台になります。

実際の管理職研修では「自分史」を通じてこれを丁寧に掘り下げます。人間の行動の約95%は無意識に支配されており(Bargh & Chartrand, 1999)、本当の価値観は自分でも自覚されていないことが多いからです。

自己理解とは、「すでにある自分を発見すること」ではなく、「自分の人生に意味を与えること」です。

その意味は、診断結果の中にあるのではなく、自分が生きてきた文脈の中にあります。

「事実」と「解釈」を分けるということ

自己基盤力において重要なポイントの一つが、「事実」と「解釈」を分けることです。

「失敗した」という事実と、「自分はダメだ」という解釈は、全く別物です。しかし多くの人は、この二つを無意識のうちに混同しています。認知行動療法(CBT)においても、この「事実と解釈の分離」は中核的な技法の一つとして位置づけられており、自己肯定感や自己効力感の向上に有効であることが多くの研究で示されています。

過去の経験を「何があったか(事実)」として丁寧に取り出し、「それをどう解釈してきたか」を問い直す。この作業を通じて、人は自分の価値観の形成過程を理解し、不要な自己制限を手放すことができます。

また、私たちはモチベーションについてもこう考えています。モチベーションとは「前に進む力」ではなく、「コンフォートゾーン(快適・安心な領域)に戻ろうとする力」だということです。人間には現状維持バイアス(Status quo bias)があり、無意識のうちに慣れ親しんだ状態=現状に戻ろうとします。だからこそ、自己理解が浅いままでは、どれほど強い意志を持っても変化は起きにくい。自分が本当に望む未来を価値観と深く結びつけて理解したとき、初めてコンフォートゾーンが未来へと移動していきます。

では、MBTIやストレングスファインダーは無意味なのか

ここまで読んで、「では、これらのツールは不要なのか」と思われた方もいるかもしれません。

私たちの答えは、「補助線としては有効だが、主役ではない」というものです。

自分史を通じて見えてきた価値観を整理する際の参照点にする、あるいは他者との違いを理解するための対話のきっかけにする。そうした使い方であれば、十分に意味があります。地図の一部として使う分には、有用なツールです。

問題は、それを自己理解の出発点にしたり、アイデンティティとして扱ったりすることです。「私はこういう人間だ」という結論を外部から与えられた時点で、本来の自己理解のプロセスは止まってしまいます。ラベルは、使い方を誤ると、自己探求の扉を開くのではなく、閉じてしまうのです。

* * *

おわりに

自己理解とは、「自分を分類すること」ではなく、「自分の人生に意味を見出すこと」です。

MBTIには再検査信頼性の低さや二値分類の非科学性という問題があり、ストレングスファインダーには独立した研究の不足という課題があります。しかし、それ以上に私たちが問題視しているのは、これらのツールが「答えを外側に求める姿勢」を強化してしまうことです。

自分を理解するための答えは、どこか外側にあるのではありません。自分がどんな環境で育ち、何に喜び、何に傷つき、何を大切にするようになったのか。その積み重ねの中にしか、本当の自分は存在しません。

自己基盤力が整ったとき、人は他者の評価に振り回されることなく、自分の軸で意思決定し、未来に向かって力強く進み始めます。管理職研修において本当に意味のある自己理解とは、まさにこの力を育てることだと私たちは考えています。そしてその出発点は、いつもシンプルです。

自分の人生を、丁寧に振り返ること。

私たちは、そこから始める自己理解を、これからも大切にしていきます。

Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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