SERIES|評価者の旅 ── 裁定から成長支援へ、管理職研修10講 第3回
管理職研修の現場で話していると、ほぼ必ず出てくる嘆きがあります。「うちにも評価制度はあるんですけどね、正直、形だけで機能してないんですよ」──こういう声を上げる管理職に、能力やまじめさが欠けているわけではありません。むしろ、誠実な人ほど評価面談で苦しんでいる印象があります。問題は個人のスキルではなく、評価運用の構造にあるのです。
構造の問題は、本人がいくらがんばっても解けません。逆に言えば、構造のどこに落とし穴があるかを見極めれば、現場でできる手当てが見えてきます。本記事では、評価が形骸化する典型的な三つのパターンを取り上げ、それぞれにどう対処するかを考えていきます。
パターン1:期初の目標設定が曖昧なまま、期末を迎える
最初にして、最大の落とし穴。それが期初の目標設定の甘さです。
期初の握りが、こんな粗さで終わっていないでしょうか。
- 「営業目標◯◯円の達成」
- 「業務改善を進めること」
- 「チームのマネジメント力を強化する」
字面だけ見ると、それらしいことが書いてあります。けれど、これでは半年後の期末面談で、必ず揉めます。「業務改善とは何だったのか?」「マネジメント力強化って、具体的に何を指していたのか?」──解釈の幅が広すぎて、達成したともしていないとも言える、グレーな状態が出来上がるからです。
期末で揉めるのは、能力や姿勢の問題ではありません。期初の握りが甘いから、期末で評価できなくなっているのです。
期初に握れていないことは、期末に評価できない。
この一行は、評価運用において最も大事な原則のひとつです。期末面談で「あれ、この人、何を頑張ってきたんだっけ?」と困ったら、責めるべきは部下ではなく、期初の自分です。
パターン2:期中のフィードバックがゼロのまま、期末面談に突入する
次の落とし穴は、期中の沈黙です。
期初に目標を握ったあと、上司が忙しさに紛れて何のフィードバックもしないまま半年が過ぎる。そして期末面談で突然、「実はあそこができていなかった」「あの行動はちょっと気になっていた」と告げられる──。これは、部下にとって面談ではなく、不意打ちの場です。
不意打ちを食らった人間が冷静に対話できるはずがありません。「なぜ今ごろ言うんですか」「期中に言ってくれていれば直せたのに」──返ってくる言葉がもっともすぎて、上司の側も気まずくなる。気まずさを糊塗するために評価点を少し甘めにつけ、本質的なフィードバックは飲み込まれていく。これが、評価面談が儀式化していく典型的なメカニズムです。
期中フィードバックがゼロになる理由は、たいてい上司側の「気づかい」です。「忙しそうだから」「いまは別のことに集中させたい」「言ったらモチベーションが落ちるかも」。優しさのつもりが、実は評価面談を地雷原に変える行為になっている、という構造です。
パターン3:評価が「コミュニケーション」ではなく「書類仕事」になっている
三つ目の落とし穴は、書類仕事化です。
評価シートを期日までに埋めることが目的化していないでしょうか。人事部からのリマインドに追われ、部下一人につき10分・15分の確認のような面談で済ませてしまう。シートに点数と短いコメントを書き、上司から一方的に告げて終わる。部下はうなずくしかなく、面談を終えたあと「で、あれは何だったんだろう」と首をかしげる。
本来、評価シートは面談で何を話したかを記録するための器です。ところが書類仕事化すると、順序が逆転します。シートを埋めるために面談がある、という倒立した世界になる。これでは、面談は人を活かすための営みではなく、人事部に提出する手続きに成り下がります。
書類仕事化が起きる背景には、評価面談の所要時間と人数のミスマッチもあります。10人の部下を抱えていて、それぞれに1時間の面談を取ると、それだけで10時間。本業の合間に取るには重すぎる、と感じている管理職は多いはずです。
三つの落とし穴に共通する根っこ
三つのパターンを並べてみると、共通点が見えてきます。
| パターン | 何が起きているか | 根っこにあるもの |
|---|---|---|
| 期初の握りが甘い | 達成基準が曖昧で、期末に揉める | 「あとで考えればいい」という先送り |
| 期中フィードバックゼロ | 期末で不意打ちになる | 「気づかい」という名の対話回避 |
| 書類仕事化 | 面談が手続きになる | 「評価=事務処理」という認識 |
共通するのは、評価を「点」として扱っているか、「線」として扱っているかの違いです。形骸化した評価は、期末の面談という一点でなんとかしようとします。機能する評価は、期初・期中・期末を貫く一本の線として運用されます。多くの管理職研修がこの「線」の発想を強調するのは、点では人を活かしきれないからです。
今日できる、小さな構造改革
最後に、明日から手をつけられる三つのチェックを置いておきます。
- 期初の握り直し:いまあなたが管理している部下の今期の目標を、自分の口で言ってみてください。詰まったら、部下も詰まっているはずです。次回の1on1で、握り直す機会を取りましょう。
- 期中の小さな声がけ:今週中に、部下一人ずつに対して、最近の仕事ぶりについて30秒で具体的なフィードバックをしてみる。良いことでも気になることでも構いません。期末まで持ち越さないことが目的です。
- 面談時間の予約:次の評価面談、最低45分のブロックがカレンダーに入っていますか。入っていなければ、いま入れてください。時間を取らない決断をするのは、評価しないと決めるのに近い意味を持ちます。
評価が形骸化するのは、誰かがサボっているからではなく、構造が古いままだからです。構造はあとから変えられます。三つの落とし穴のうち、自分の現場で最も深いのはどれか──まずそこから、一つだけでも手をつけてみてください。
次回は、そもそも評価を「点」ではなく「線」として運用するとはどういうことか──プロセスとしての評価を、もう少し踏み込んで考えていきます。
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