「マネジメントとは何か?」――この問いへの答え方ひとつで、日々の行動は大きく変わります。本稿では定義を“目的・手段・手段の手段”という三つの層で捉え直し、時代の変化で本当に書き換わったのはどこなのかを、はっきりさせます。
01「マネジメントとは何か?」に、一言で答えられますか
管理職研修の冒頭で、私はいつもこう問いかけます。「あなたにとって、マネジメントとは何ですか?」と。返ってくる答えは、さまざまです。
- マネジメントとは、人材育成である
- マネジメントとは、管理である
- マネジメントとは、部下の能力を引き出すことである
- マネジメントとは、他者を巻き込みながら成果を上げることである
どれももっともらしく、いずれも間違いではありません。ただし、それらはすべてマネジメントの「一部」であり、本質そのものではない、と私たちは考えています。
定義が違えば、同じ立場にいても、選ぶ行動がまったく変わります。「育成」と定義する人は部下に任せ、「管理」と定義する人は進捗を細かく追う。だからこそ、出発点となる「言葉の定義」を、曖昧なままにしてはいけません。そこで本稿では、マネジメントの定義を、三つの層で捉え直してみます。
02第1層――「何のために」(目的)
最初の層は、目的です。このテーマに数多くの知見を残したピーター・ドラッカーの言葉を集約すると、マネジメントは次のように定義できます。
人材育成も、モチベーションも、管理も、他者を巻き込むことも――すべては、この一点のための「手段」に過ぎません。マネージャーの目的は、究極的にはここに集約されます。
短期の数字だけを追えば、組織は疲弊し、ときに不正さえ生まれます。長期と短期を調和させ、長期的な成果を最大化する。これが、すべての土台となる第1層です。
03第2層――「どうやって」(手段)
次の層は、手段です。参考になるのが、全米マネジメント協会(AMA)の定義です。
ここでの最大のポイントは、「人を介して」という部分です。マネジメントとは、自分が最前線で成果を出すことではありません。一人ひとりと向き合い、モチベーションを引き出し、成長を促し、シナジーが生まれるよう役割を設計し、それを支える仕組みを整えていく。「人」と「仕組み」の両方を通じて成果を生み出す営みです。
ドラッカーの定義(目的)とAMAの定義(手段)は、どちらが正しいという話ではありません。答えている「問い」が違うだけです。目的とその手段として、入れ子のように重なっているのです。二つを重ねると、こうなります。
04第3層――「人を、どう介するのか」(手段の手段)
さて、ここからが本題です。AMAの定義にある「人を介して」。では、その「人の介し方」とは、具体的にどうすることなのでしょうか。目的、手段と来て、その先にある「手段の手段」。マネジメントの定義には、この第3の層があります。そして私たちは、この第3層を、次のように定義しています。
三つの層を、入れ子の構造として一枚に重ねると、こうなります。
05書き換わったのは、第3層だけ
ここで、興味深い事実があります。統制型のマネジメントが機能していた時代も、第1層と第2層は、まったく同じでした。長期的な成果の最大化のために、人を介して成果をあげる。ただ、その「介し方」が、アメとムチで「動かす」ことだったのです。
働き方改革を経て、「動かす」が使えなくなった今、変わったのはこの第3層だけです。第1層(ドラッカー)と第2層(AMA)は、時代を問わず変わらない、マネジメントの土台であり続けます。私たちが立て直すべきは、定義の全部ではなく、「人の介し方」という一点なのです。
06この三層が、学びのすべてを束ねる
新しい第3層――「動き出す状態をデザインする」は、思いつきの理想ではありません。経営学にも裏付けがあります。組織の成果は「関係の質→思考の質→行動の質→成果の質」という好循環(成功循環モデル)から生まれる。だからこそ、人を動かすのではなく、関係と場を整えることが起点になる。これが、第3層を支える学術的な土台です。
そして実は、この「デザイン」を、私たちはすでに具体的な技術として知っています。重要な仕事を部下に「任せる」こと。自分の軸を固める「自己基盤力」。ありたい姿を描く「課題解決力」。一人ひとりを動かす「他者影響力」。バラバラに見えるこれらは、すべて「人が動き出す状態を、どうデザインするか」という第3層の問いへの、角度の違う答えなのです。
つまりこの三層構造は、個々のスキルを学ぶ前に、何度でも立ち返るべきマネジメントの「見取り図」です。
07「放任」と「デザイン」は、似て非なるもの
最後に、起こりがちな誤解を、先回りしておきましょう。「動き出す状態をデザインする」と聞くと、「なるほど、細かく指示せず、任せて見守ればいいんですね」と受け取る方がいます。
――違います。それは「デザイン」ではなく、「放任」です。
統制もせず、導きもしない放任と、内発型のマネジメントは、一見似ていますが、まったくの別物です。「動かす」から「動き出す」への書き換えは、管理職の役割の“降格”ではありません。むしろ“格上げ”です。「指示し、教える人」から、「人が動き出す場をつくる人」へ。求められる水準は、確実に上がっているのです。
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