2E式管理職養成プログラム

「自己基盤力」をベースに

管理職を“罰ゲーム”にしないための、マネジメント再設計。

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【管理職研修】「任せる」と「丸投げ」を分けるもの――権限移譲できない管理職の4つの内なる壁

「自分でやったほうが速い」の、その先

「これ、お願いできるかな」と部下にメールを書きかけて、佐藤マネージャー(仮名)の指が止まる。説明する時間を考えたら、自分でやったほうが速い。仕上がりも安心だ。彼は下書きを消し、自分のToDoにまた一つ、タスクを足す。

こうして佐藤さんのリストは膨らみ続け、部下のリストは軽いまま据え置かれる。本人は責任感の強い、よく働く管理職だ。けれど一年後、彼のチームは「佐藤さんがいないと何も決まらないチーム」になっていた。

前回、私たちは管理職の「罰ゲーム化」を、プレーヤーとマネージャーの二重役割の衝突として分解しました。そして処方箋の一つに「手放すこと」を挙げました。今回は、その「手放す」=権限移譲を正面から扱います。なぜなら、最も多くの管理職がつまずくのが、まさにここだからです。

権限移譲は、管理職の「逃げ」ではない

「任せる」という言葉に、どこか後ろめたさを感じる管理職は少なくありません。自分が楽をするために、仕事を押し付けているのではないか――と。

しかし、これは誤解です。権限移譲は、サボりでも手抜きでもありません。管理職にしかできない、最も重要な仕事の一つです。

理由は単純です。一人のプレーヤーが生み出せる成果には、上限があります。どれだけ優秀でも、一日は24時間しかない。管理職が自分の手だけで成果を出し続ける限り、チームの成果は「管理職一人分」で頭打ちになります。チームの力を、メンバーの数だけ掛け算にしていく――それが管理職の役割です。

つまり、権限移譲できない管理職は、チームの成長を自分の手で止めている。本人にその自覚がないことが、この問題を根深くしています。

「任せる」と「丸投げ」は、似て非なるもの

ここで多くの人がもう一つの誤解に陥ります。「任せたのに、部下が動かない」「任せたら、品質が落ちた」。だから自分でやったほうがいい――と。

しかし、それは「任せた」のではなく「丸投げした」だけかもしれません。この二つは、見た目は似ていて、中身はまったく違います。

✕ 丸投げとは、仕事を渡すこと

「あとはよろしく」で終わる。目的も、判断基準も、どこまで任せたのかも曖昧なまま、結果だけを問う。

○ 任せるとは、仕事と一緒に、「判断のための材料」を渡すこと

何のためにやるのか(目的)、どこまで自分で決めていいのか(権限の範囲)、どうなれば成功か(完了条件)、困ったらいつ相談すべきか(エスカレーションの線)。これらを共有して初めて、部下は安心して動き出せます。

部下が動かないのは、やる気がないからではありません。動くための材料を渡されていないからです。丸投げされた部下は、「失敗したら自分の責任にされる」と感じ、当然ながら萎縮します。

任せられない管理職の、4つの内なる壁

では、頭では分かっていても、なぜ手放せないのか。多くの場合、原因は技術ではなく、管理職自身の内側にあります。

1不安

「失敗されたら困る」「自分が責任を問われる」。コントロールを手放すことへの恐れ。これが最も大きな壁です。

2プレーヤー脳

自分で動くことに慣れた人ほど、「自分がやる」が初期設定になっている。任せるという選択肢が、そもそも頭に浮かばない。

3完璧主義

「自分の基準」を100点とすると、部下の80点が許せない。けれど、最初から100点を出せる部下はいません。80点を許容しなければ、永遠に任せられません。

4存在意義への不安

「自分がやらなくても回る」状態を、心のどこかで恐れている。自分の価値がなくなるように感じてしまう。

この四つは、いずれもスキルの問題ではなく、あり方(Being)の問題です。だからこそ、テクニックだけを学んでも権限移譲は進みません。私たちが管理職研修で自己基盤力を土台に置くのは、まさにこのためです。自分の存在意義を「自分が動くこと」ではなく「チームを動き出させること」に置き直せたとき、初めて人は安心して手放せます。

「丸投げ」を「任せる」に変える、三つの設計

では、どうするか。精神論ではなく、設計で解きます。

第一に、目的を渡す

「何をやるか(What)」だけでなく「何のためか(Why)」を共有する。目的さえ握れていれば、部下は想定外の場面でも、目的に立ち返って自分で判断できます。作業を渡すのではなく、目的を渡す。これが任せるの起点です。

第二に、権限の範囲を明示する

「ここまでは自分で決めていい。これを超えたら相談して」という線を、最初に引く。この線がないと、部下は一歩ごとに確認に来るか、勝手に進めて事故るかのどちらかになります。任せる範囲を曖昧にしたまま結果を問うのは、フェアではありません。

第三に、失敗の余地を設計する

任せる以上、期待値より低い結果は必ず出ます。だからこそ、取り返しのつく仕事から任せる。小さく任せ、振り返り、また少し大きく任せる。この階段を設計するのが管理職の仕事です。一度の失敗で「やっぱり自分で」と戻してしまえば、部下は二度と挑戦しなくなります。

そしてどの場面でも、私たちが繰り返し伝える原則は変わりません。マネジメントとは、人を動かすことではなく、人が動き出す状態をつくること。任せるとは、その思想を最も具体的に実践する行為です。

管理職の成功とは、「自分が要らなくなる」こと

逆説的ですが、管理職としての究極の成功は、「自分がいなくても回るチーム」をつくることです。

自分がいないと何も決まらないチームは、一見すると頼られている証のようで、実はリスクの塊です。管理職が倒れた瞬間に止まり、メンバーは育たず、そして管理職自身は永遠に「罰ゲーム」から降りられません。

逆に、任せることのできる管理職のもとでは、メンバーが判断力を身につけ、次のリーダーが育ち、管理職自身はより重要な、より長期の仕事――つまり経営に近い仕事に時間を使えるようになります。前回お伝えした「管理職は経営職である」という役割転換は、権限移譲なしには実現しません。

おわりに――手放すことは、信じること

「任せる」と「丸投げ」を分けるもの。それは、目的の共有であり、権限の明示であり、失敗を許す設計であり、そして根底にあるのは、部下を信じるという管理職のあり方です。

自分でやったほうが速い。確かにそうかもしれません。けれど、その「速さ」と引き換えに、私たちは部下の成長機会と、チームの未来と、自分自身の時間を失っています。

あなたが今日、自分のToDoに足したそのタスクは、本当にあなたがやるべき仕事でしょうか。
それとも、誰かが育つはずだった機会でしょうか。
手放す勇気は、その問いから始まります。

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Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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