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管理職研修で伝えたい「支援の落とし穴」──エドガー・シャインの名著に学ぶ、1on1とコーチングの本質

管理職研修や1on1の場面で、こんな経験はないでしょうか。「良かれと思ってアドバイスしたのに、部下の表情が曇った」「丁寧に指導したつもりが、かえって相手の主体性を奪ってしまった」──。親切心から出た行動が、実は相手にとっては「ありがた迷惑」だった。仕事に限らず、日常生活でも誰しも心当たりがあるのではないでしょうか。

組織心理学の世界的権威であるエドガー・シャイン(MITスローン経営大学院名誉教授)は、著書『人を助けるとはどういうことか──本当の「協力関係」をつくる7つの原則』(英治出版)の中で、まさにこの問題を深く掘り下げています。本書は、管理職研修やコーチングに携わるすべての方にとって、支援の「あり方」を根本から問い直す一冊です。

「助ける」とは、相手を下に置くことではない

シャインが本書で繰り返し指摘するのは、支援関係には構造的な「非対称性」が存在するという事実です。助けを求める側は、自らの弱さや困りごとを相手にさらけ出すことになります。つまり、心理的に「ワンダウン」の立場に置かれる。一方、支援する側は「ワンアップ」──優位でパワフルな立場として見られがちです。

支援する側 ワンアップ ▲ 優位な立場・パワフル 「教えてあげる」意識 ⚠ 自己満足の罠が潜む 支援される側 ワンダウン ▼ 脆弱な立場・依存的 面子が傷つきやすい ⚠ 主体性が奪われる 支援者こそ、この非対称性を誰よりも深く理解しなければならない

図1:支援関係に潜む「ワンアップ・ワンダウン」の構造(シャインの理論を基に作成)

支援者が陥りやすい「大きな罠」
人に支援を与えているとき、「人を下に置くことで自己満足を得ることが目的になっていないか?」──シャインはこの問いを常に自分自身に向けるべきだと説いています。管理職のコーチングや1on1でも、「教えてあげている」「導いてあげている」という善意の裏側に、相手の主体性を奪う構造が隠れていないか、常に自問する姿勢が求められます。

3つの支援モデル──あなたはどのモードで関わっていますか?

シャインは支援のあり方を3つのモデルに分類しています。多くの管理職研修では1つ目や2つ目の関わり方が重視されがちですが、シャインはまず3つ目のプロセス・コンサルテーションの姿勢から始めることの重要性を強調しています。

1

専門家モデル

クライアントが必要とする知識・ノウハウを提供する。「答えを教える」関わり方。

2

医師─患者モデル

相手の状態を診断し、処方箋を出す。「問題を特定して解決策を示す」関わり方。

3

プロセス・コンサルテーション

相手が自ら問題に気づき、解決策を考え、実行するプロセスに伴走する。

シャインが最も重視
  専門家モデル 医師─患者モデル プロセス・コンサルテーション
問題の定義 クライアントが定義 支援者が診断 両者が協同で探求
解決策 支援者が提供 支援者が処方 クライアントが主体的に策定
支援者の役割 情報・技術の提供者 診断者・処方者 プロセスの伴走者
1on1に置き換えると 「答えはこれだよ」 「君の問題はここだ」 「一緒に考えてみよう」

なぜプロセス・コンサルテーションが出発点として重要なのか。それは、相手が本当に何を必要としているかは、「控えめな問いかけ」を通じてしか明らかにならないからです。これはまさに、1on1やコーチングの本質と重なります。上司が一方的に答えを与えるのではなく、問いかけを通じて部下自身が考え、自分なりの答えにたどり着くプロセスを支える。その姿勢が、部下の自律性を育み、結果として組織全体の力を底上げしていくのです。

フィードバックにも「支援の原則」が宿る

本書の示唆は、日常的なフィードバックの場面にも直結します。シャインが提唱するフィードバックの原則は、管理職が押さえておくべき本質を突いています。相手の面子を守ること、具体的な行動に焦点を当てること、相手が受け取れるタイミングと量を見極めること──。これらは単なるテクニックではなく、支援関係における信頼構築そのものです。

1on1でのフィードバック実践例
✕「あなたのここがダメだ」(人格への評価)
◎「このプロジェクトで、こういう行動をとった結果、こうなった」(事実ベース)
→ そのうえで「次はどうしたいと思う?」と問いかける

管理職研修の中で「フィードバックの仕方」を学ぶ機会は多いでしょう。しかし、その土台にある「支援者としての姿勢」──つまり、フィードバックを通じて相手との信頼関係を築き、相手の自律的な成長を促すという目的意識まで踏み込んで学ぶ機会は、まだ少ないのではないでしょうか。

コンサルティングやティーチングにも「コーチング的」関わりが不可欠

シャインの洞察でもう一つ重要なのは、コンサルティングやティーチングの場面であっても、「コーチング的」な関わりが不可欠だという点です。一方的な指導はクライアントや部下の主体性を損ない、結果として依存を生んでしまう。自分の代わりに他人に考えてもらう習慣がついてしまえば、組織としての自律的な問題解決力は育ちません。

これは、管理職の1on1において「答えを教えたくなる衝動」とどう向き合うか、という問いにもつながります。部下の成長を真に願うなら、すぐに解決策を示すのではなく、まず「控えめな問いかけ」から始める。その忍耐と技術こそが、管理職に求められるコーチングの力なのです。


支援者としてもっと有能になれたら、
誰にとっても人生がよりよいものになる。

── エドガー・H・シャイン『人を助けるとはどういうことか』

エドガー・シャインの『人を助けるとはどういうことか』は、管理職研修、1on1、コーチングに関わるすべてのビジネスパーソンに深い示唆を与えてくれる名著です。シャインのこの言葉を胸に、私たちも日々の関わり方を見つめ直していきたいものです。

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Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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