こんにちは、2E Consultingの山本哲郎です。
最近、ゴルフにすっかりハマっています。20年来どうしても越えられなかった「120の壁」をようやく乗り越え、先日ベストスコアを更新しました。
嬉しさに任せて周りを見渡すと、経営者や管理職の方に、ゴルフに熱中している人が本当に多いことに気づきます。忙しいはずの人ほど早朝から練習場に通い、休日には片道2時間かけてコースへ向かう。なぜ、これほど多くのビジネスパーソンがゴルフに惹きつけられるのでしょうか。
こんな悩みをお持ちの方へ
- 目標を渡しても、部下が「やらされ感」から抜けない
- 評価や報酬を工夫しても、モチベーションが長続きしない
- 同僚同士が比較で疲弊し、仲間の成功を素直に喜べない空気がある
- 1on1で何を問えばよいか、決まった型がない
この記事では、その理由を心理学の「自己決定理論」から読み解き、そこから見えてくる「自己承認の世界」を、どうすれば平日の職場の中につくれるのかを考えます。
人が意欲的に動くための3つの欲求:自己決定理論
心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した自己決定理論では、人が内側から意欲的に行動するには、3つの基本的な心理欲求が満たされることが重要だとされています(Ryan & Deci, 2000)。
自己決定理論の3つの基本的心理欲求
1 自律性
自分で決めている、という感覚
2 有能感
できるようになっている、上達している、という感覚
3 関係性
他者とつながり、受け入れられている、という感覚
これをゴルフに当てはめてみます。
自律性。目標スコアも、練習方法も、コースでの攻め方も、すべて自分で決めます。ドライバーで攻めるか、刻むか。誰の指示でもなく、自分の判断です。
有能感。練習の成果が、飛距離、方向性、そしてスコアという数字に表れます。数字はごまかしがききませんが、その代わり、自分の努力に正直に応えてくれます。
関係性。同伴者と一日を共にし、健闘を称え合う。ラウンド後の食事まで含めて、人とつながる時間です。
こう並べると、ゴルフは3つの欲求を同時に満たす、非常によくできた「装置」であることが分かります。
個人競技なのに、なぜ「関係性」まで満たされるのか
ここで一つ、疑問が湧きます。ゴルフは基本的に個人競技です。それなのに、なぜ「関係性」まで満たされるのでしょうか。スコアを比べ合えば、むしろ他者との比較で疲れそうなものです。
鍵は、「誰と競っているか」にあります。
多くのアマチュアゴルファーが本当に競っている相手は、同伴者ではなく「過去の自分」です。100を切る、ベストを更新する。目標はいつも、自分の過去の数字との比較で語られます。
動機づけの研究では、目標の持ち方を二つに分けて考えます(Ames, 1992)。
パフォーマンス目標
- 基準:他者より優れていることを示す
- 他者との比較がすべて
- 失敗=能力不足の証拠
熟達目標
- 基準:自分の技能を高め、以前より進歩する
- 努力そのものに価値が置かれる
- 失敗=次に活かす情報
ゴルフの目標は、そのほとんどが熟達目標です。競う相手が「過去の自分」である限り、同伴者が100を切っても、別の誰かがベストを更新しても、自分の目標達成が妨げられるわけではありません。ゼロサムではないのです。だからこそ、同伴者は競争相手ではなく、互いの挑戦を応援する仲間になれる。「ナイスショット!」を、心から言えるのです。
これが、個人競技であるゴルフで「関係性」まで満たされる理由です。同じ場所で、それぞれが自分の目標に挑み、互いの成長を喜び合う。
「他己承認の世界」と「自己承認の世界」
私たち2Eでは、承認欲求を二つに分けて考えています(詳しくは「管理職研修の効果が出ない原因は『承認欲求』の理解不足にある」)。
- 他己承認欲求:他人からの評価や承認を求める気持ち。上司の評価、昇進、SNSの「いいね」
- 自己承認欲求:自分で立てた目標を達成し、過去からの成長を自ら認めようとする欲求。自分の内側で完結する
じつは私たちの研修テキストでも、自己承認欲求の例として「ゴルフで100を切ると決め、その瞬間に味わう深い達成感」を挙げてきました。ゴルフは、自己承認欲求が満たされる場の典型なのです。
一方、ビジネスの最前線はどうでしょうか。目標は上から降りてくる(自律性が削られる)。成果は他者との比較で評価される(有能感が相対的で不安定になる)。同僚は評価枠を争うライバルになる(関係性が細る)。つまり職場は、放っておくと「他己承認の世界」になりがちです。
そして他己承認は、決して満たされ続けません。昇進しても、その上には必ず「もっと上」があります。だから疲弊する。
これには研究の裏づけがあります。デシらが128の実験を統合したメタ分析では、成果に応じて与えられる有形の報酬は、人の内発的動機づけをむしろ損なうことが示されました。一方で、肯定的なフィードバック(言葉による承認)は、内発的動機づけを高めていました(Deci, Koestner, & Ryan, 1999)。評価と報酬で人を動かそうとするほど、内側から湧くエネルギーは削られていく。ここが、職場とゴルフ場の分岐点です。
だからこそ、過去の自分と向き合い、仲間と成長を喜び合えるゴルフに、多くのビジネスパーソンが惹きつけられるのかもしれません。ゴルフ場は、週末だけ訪れることのできる「自己承認の世界」なのです。
自社の管理職が「他己承認」に傾いていないかを可視化する
マネジメント観・自己基盤力・課題解決力・対話力・組織対話力の5つの視点で現在地を測る、無料のマネジメント診断をご用意しています。「評価で動かそうとして、部下が疲弊している」チームに何が起きているのかを、感覚ではなく構造で捉える手がかりになります。
「自己承認の世界」を、組織の中につくる
では、週末のゴルフ場にしかない「自己承認の世界」を、平日の職場にどうつくるか。
自己決定理論を職場に応用した研究のレビューでは、3つの欲求が満たされている職場ほど、業績もウェルビーイングも高いことが繰り返し示されています(Deci, Olafsen, & Ryan, 2017)。設計のポイントは、3つの欲求にそのまま対応します。
設計1:自律性——目標を「渡す」のではなく、Willから「決めさせる」
「やらされ目標」では人は動きません。私たちはWill・Can・Must、つまり「やりたいこと」「できること」「求められていること」の重なりに目標を置きますが、大切なのは考える順番です。Willから考える。まず本人が「何をしたいか」「何ができるか」を語り、そのうえで上司が「求めていること(Must)」を重ねる。Mustから始めると、どうしてもやらされ感が先に立ちます。そしてMustは「命令」ではなく「あなたへの期待」として伝える。ゴルフで言えば、「今年は110を切る」を自分で決める瞬間です。
設計2:有能感——「他者との比較」ではなく「過去の本人との比較」を可視化する
ゴルフにはスコアカードがあります。職場にも、期初の状態と今の差分が見えるものが必要です。期中のフィードバックで「3か月前はできなかった○○が、今はできている」と事実で伝える。
ここで注意したいのは、「褒める」と「承認する」の違いです。ドゥエックらの実験では、能力を褒められた子どもは失敗を恐れて易しい課題を選び、努力を承認された子どもは難しい課題に挑み続けました(Mueller & Dweck, 1998)。「頭がいいね」ではなく「ここまで粘ったね」。評価ではなく、事実と感謝を伝えるのが承認です。
設計3:関係性——他者の成功が、自分の脅威にならない場をつくる
仲間の成長を心から喜べるのは、自分が「過去の自分」と競っているときだけです。チームの中で誰かの達成を全員で喜ぶ習慣をつくる。週次のミーティングで「先週のナイスショット」を一つずつ共有する。そして上司が率先して、自分自身の小さな成長と失敗を語る。上司が「過去の自分と競う姿」を見せることが、チームの目標構造を熟達型に変えていきます。
対比表:他己承認の世界と、自己承認の世界
| 他己承認の世界 | 自己承認の世界 | |
|---|---|---|
| 競う相手 | 同僚・他部署・世間 | 過去の自分 |
| 成功の基準 | 他者より上か(相対) | 以前より進歩したか(絶対) |
| 仲間の位置づけ | 評価枠を争うライバル | 互いの挑戦を応援するサポーター |
| フィードバック | 評価・序列づけ・「すごいね」 | 事実の承認・「ここまで粘ったね」・感謝 |
| エネルギー源 | 承認されたい不安(外から) | 達成したい欲求(内から) |
| 半年後 | 疲弊し、挑戦を避ける | 難しい課題に自分から手を挙げる |
上司が明日から使える3つの問い
自己承認の世界は、大がかりな制度改革がなくても、1on1の問いから始められます。
問い1(自律性) 「この半期、あなたが一番達成したいことは何ですか?」
会社の目標を伝える前に、まず本人のWillを聴く。答えが出るまで待つ。そのうえで、組織からの期待(Must)を「命令」ではなく「あなたへの期待」として重ねる。
問い2(有能感) 「3か月前と比べて、何ができるようになりましたか?」
本人に過去の自分との差分を言語化してもらう。上司が気づいた事実も添える。
問い3(関係性) 「今週、チームの誰のナイスショットを見ましたか?」
仲間の成長に目を向ける習慣をつくる。上司自身も答える。
よくある質問
Q. 目標を本人に決めさせると、会社の目標と乖離しませんか?
順番が肝心です。私たちの研修では「Willから考える」ことを徹底しています。Must(組織からの期待)から考え始めると、どうしても「やらされ感」が先に立ち、Willは後づけになってしまいます。まず本人が「何をしたいか(Will)」「何ができるか(Can)」を語り、そのうえで上司がMustを重ねる。このときMustを「命令」ではなく「あなたへの期待」として伝えることが非常に重要です。乖離は、Willを聴かずに目標を渡したときにこそ起こります。
Q. 相対評価の制度がある中で、自己承認の世界はつくれますか?
制度は制度、日々のマネジメントは別のレイヤーです。制度を変えなくても、日常のフィードバックの基準を「過去の本人」に置くことはできます。ただし、未達を正直に言うと評価が下がる運用になっているなら、制度側の点検も必要です。
Q. ゴルフをしない部下には、どう伝えればよいですか?
ゴルフはあくまで比喩です。ランニング、楽器、資格の勉強。「過去の自分と競う活動」には、すべて同じ構造があります。その人が夢中になっているものを聞いてみてください。そこに、その人の自己承認欲求の形が見えます。
まとめ
- ゴルフは自律性・有能感・関係性の3欲求(自己決定理論)を同時に満たす装置である
- 個人競技なのに関係性が満たされるのは、競う相手が「過去の自分」(熟達目標)で、ゼロサムでないから
- 職場は放っておくと「他己承認の世界」になり、評価と報酬で動かすほど内発的動機づけは削られる(Deci et al., 1999)
- 「自己承認の世界」は3つの設計(目標を決めさせる/過去の本人との比較を可視化する/他者の成功が脅威にならない場)でつくれる
- 出発点は制度改革ではなく、1on1の3つの問いと、上司自身が「過去の自分と競う姿」を見せること
おわりに:月曜日に持ち帰るもの
私の次の目標は「110の壁」です。私のスコアは、同伴者の誰の邪魔にもなりません。それでいて、私がベストを更新した日、同伴者は自分のことのように喜んでくれました。
メンバーが自分の成長を認め、仲間の成長も喜べる。この「自己承認の世界」を組織の中にいかにつくるかが、これからの組織づくりの肝なのだと思います。
週末のゴルフ場で味わったあの感覚を、月曜日の職場に持ち帰る。それが、この記事で一番伝えたかったことです。
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・「目標を渡しても、部下がやらされ感から抜けない」
・「1on1が形骸化していて、何を問えばよいか分からない」
・「評価と育成を両立させたいが、うまくいっていない」
ボタンを押すとメールソフトが立ち上がります。開かない場合は info@2econsulting.co.jp まで直接お送りください。
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自己承認の世界を職場につくる出発点は、管理職自身の自己基盤力です。他己承認欲求の罠から抜け出し、自分軸で判断できる管理職を育てる。管理職を”罰ゲーム”にしないためのマネジメント再設計プログラムの詳細は、こちらからご覧いただけます。
参考文献
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68-78.
- Ames, C. (1992). Classrooms: Goals, structures, and student motivation. Journal of Educational Psychology, 84(3), 261-271.
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627-668.
- Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33-52.
- Deci, E. L., Olafsen, A. H., & Ryan, R. M. (2017). Self-determination theory in work organizations: The state of a science. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 4, 19-43.
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