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【ファイナンス思考で考える:老朽化インフラと日本の社会的割引率】

最近、水道管の破裂がニュースで頻繁に報じられています。老朽化したインフラが限界を迎え、各地で深刻なトラブルが発生しています。これらのインフラはすでに耐用年数を超えているにもかかわらず、なぜ公共投資が進まないのでしょうか?

この問題をファイナンスの視点から考えると、単に予算不足の話ではなく、意思決定の仕組みそのものに原因があることが見えてきます。

lightbulbこの記事のポイント
  • 公共投資には「最低限必要なリターン」を示す社会的割引率という基準がある
  • 日本の基準4%は、現在の金利水準と比べて高く、投資判断を厳しくしている
  • 「昔決めた基準を見直さない」問題は、企業経営や組織運営にも共通する

01ビジネスの投資判断と同じ構造

例えば、ラーメン屋を開業しようとする料理人がいるとします。彼は、開業資金として1,000万円を投資家から調達したいと考えています。

投資家は、この出資に対して「年利10%(=年間100万円以上の利益)が見込めるなら投資しよう」と判断するでしょう。これは、企業が新規事業を立ち上げる際に投資のリターンを考慮するのと同じです。

ramen_dining
民間投資
ラーメン店の開業
投資額1,000万円
求めるリターン10%
必要な利益年100万円〜
同じ構造
water_drop
公共投資
水道などのインフラ
投資額1,000万円
社会的割引率4%
必要な便益年40万円〜
図1 民間投資も公共投資も「必要なリターン」を基準に判断される

実は、公共投資にも「どれくらいのリターンが必要か?」という基準があり、これを『社会的割引率』と呼びます。

02日本の社会的割引率は4%

4%
日本の社会的割引率

1,000万円の公共投資なら
年40万円以上の経済的リターンが必要

現在、日本の社会的割引率は4%に設定されています。つまり、1,000万円の公共投資をするなら、年間40万円以上の経済的リターンがなければ投資が実行されないという仕組みになっています。

一見合理的に思えるかもしれませんが、これが今の日本の経済環境に本当に合っているのでしょうか?

03市場の利回りと比較してみる

現在の市場の利回りを見てみると、社会的割引率4%がどれほど高い基準なのかが分かります。

社会的割引率(日本)4%
プライム市場の配当利回り2〜3%
国債の利回り1%前後
銀行の定期預金0.125%
0%1%2%3%4%
図2 社会的割引率と市場の利回りの比較(記事執筆時点の水準)

このように、日本の金利水準が低い中で、社会的割引率が4%のままだと、なかなか公共投資の意思決定が進まないのは明らかです。

実は、この「4%」という基準は2000年に設定されたものです。その後、日本の金利は大幅に低下したにもかかわらず、20年以上も据え置かれたままになっています。

一方、日本よりも金利が高いアメリカでは、2013年に社会的割引率を「7%→3%」に引き下げました。

このように、時代に合わせて基準を見直す国もある一方で、日本はルールの更新が行われないまま、その結果、老朽化したインフラへの投資が滞っているのです。

04時代に合わない基準が、意思決定を歪める

これは、公共投資だけの話ではありません。

history
昔決めたルールを見直さない
sync_problem
外部環境が変化しているのに、基準をアップデートしない

こうした現象は、企業経営や組織運営でもよく見られる問題です。

例えば、企業の評価制度や意思決定プロセスも、一度決めたものが何年も見直されずに運用されているケースが少なくありません。

環境の変化に対応できない組織は、競争力を失い、成長の機会を逃してしまうのです。

05「かつての正解」が、今も正解とは限らない

このニュースをファイナンスの視点で捉えてみると、「社会的割引率」の問題は、単なる経済政策の話にとどまらず、日本全体の意思決定の在り方にもつながっているように思います。

例えば、企業経営においても、次のような課題が生じます。

  • 企業経営で起きていること
  • fact_check古い評価基準のままでは、社員のモチベーションを適切に測れない
  • trending_down市場環境が変わっているのに、意思決定プロセスが昔のままだと成長のチャンスを逃す
  • pause_circleルールの見直しを怠ると、組織全体が停滞してしまう

06ファイナンスリテラシーの重要性

そして、ここで気になるのがファイナンスリテラシーの重要性です。

「どの基準をどのように設定すべきか?」を適切に判断できる能力は、公共政策だけでなく、ビジネスやキャリア選択にも不可欠なスキルです。

しかし、こうした思考法が十分に教育されているとは言い難いのが現状です。例えば、

  • business_center企業の管理職が「投資対効果」を理解せずに事業計画を立ててしまう
  • groups社会のルールを知る機会が少ないため、国民が公共投資の是非を正しく判断できない
  • school学校教育で「お金の考え方」や「投資判断」について学ぶ機会がほとんどない

こうした問題を解決するためにも、ファイナンス的な考え方は、ビジネスパーソンはもちろんのこと、学校教育でももっと取り入れるべきテーマなのでは?

こう考えさせられるニュースでした。

SUMMARY変化を受け入れ、適切な意思決定を

老朽化したインフラの問題を通じて、「社会的割引率」という概念を考えてみました。

ビジネスでも、公共政策でも、「かつての正解」が今も正しいとは限りません。

時代の変化に合わせてルールや基準を見直し、適切な意思決定を行うことが、日本社会全体の停滞を打破する鍵になるのではないでしょうか。

また、そのためにはファイナンス的な思考力を養うことが不可欠です。

この記事を読んで、皆さんのビジネスやキャリアにも活かせるヒントがあれば嬉しいです。

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Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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