部下がミスをしました。あなたは再発を防ぎたい。だから、原因を確かめようとして、こう聞きます。
「なぜ、こうなったの?」
責めるつもりはありません。純粋に、原因が知りたいだけです。ところが部下の表情がこわばります。返ってくるのは「確認が不足していました。以後、気をつけます」という模範解答。それ以上は何も出てきません。そして数週間後、同じミスがまた起こります。
原因を聞いたはずなのに、原因にたどり着けない。多くの管理職が経験している行き詰まりだと思います。
今回は、この「なぜ?」という問いがなぜ機能しないのか、そして代わりにどう問えばいいのかを書きます。種明かしをすると、私がこの質問術を教わったのは、ビジネスの現場ではありません。大学院時代に研究していた、アフリカの農村でした。
この記事でわかること
- 「なぜ?」という問いが、部下を防御させ、本当の原因を遠ざけてしまう理由
- ケニアの農村調査で教わった、Whyの代わりに4Wで事実を特定する質問術
- 明日の1on1からそのまま使える、部下のミスへの具体的な問いかけ方
なぜなぜ分析は、人に向けると尋問になる
「なぜを5回繰り返せ」という有名な教えがあります。トヨタ生産方式に由来する、なぜなぜ分析です。問題の表面ではなく根本原因にたどり着くための優れた手法で、私も否定するつもりはまったくありません。
ただし、この手法にはひとつ、見落とされがちな前提があります。なぜなぜ分析が本来向けられていた相手は、機械や工程、つまり「モノ」だったということです。モノは「なぜ?」と問われても傷つきません。言い訳もしません。
ところが同じ問いを「人」に向けると、まるで別のことが起こります。
「なぜミスしたの?」と問われた部下の頭の中で、実際に起きていることを想像してみてください。この問いにまともに答えようとすると、行き着く先はたいてい「私が不注意だったからです」「私の確認が甘かったからです」になります。つまり、「なぜ?」への答えは、突き詰めるほど自分の欠陥の告白になっていくのです。
これを何度も繰り返せばどうなるか。部下の中では「できない自分」というセルフイメージが強化されていきます。そして「責められている」という感覚から身を守るために、上司が納得しそうな、もっともらしい原因を差し出すようになります。「確認不足でした」という模範解答は、部下の怠慢ではなく、防御なのです。
こうして、原因を知りたいという上司の純粋な意図とは裏腹に、本当の原因はどんどん遠ざかっていきます。
「どのように」で問う:未来志向の質問
この問題への処方箋として、コーチングの世界でよく知られているのが、「なぜ(Why)」を「どのように(How)」に置き換えるという方法です。
「なぜできなかったの?」ではなく、「次はどのようにすればうまくいくだろう?」と問う。過去の欠陥を掘るのではなく、未来の行動に目を向けさせる。問いの矛先が過去から未来に変わるだけで、部下は防御する必要がなくなり、前向きに考え始めます。私自身、この置き換えは日々の対話で強くお勧めしています。
ただ、正直に言うと、これだけでは足りない場面があります。
現実のマネジメントでは、原因そのものを突き止めなければならないときがあるからです。同じミスが繰り返されている。品質問題が起きている。クレームの発生源が分からない。未来志向の問いは人を前に進めますが、原因が特定されないままでは、対策が的外れになるリスクが残ります。
では、「なぜ?」と聞けば防御され、「どのように?」では原因に届かないとき、どう問えばいいのか。
ここで、冒頭に予告したアフリカの話をさせてください。
ケニアの農村で教わったこと
私は大学院時代、アフリカ研究をしていました。所属していたゼミの教授は、ケニアの農村開発を専門とするフィールドワークの第一人者でした。
その教授から、現地調査の作法として、繰り返し叩き込まれたことがあります。
村人へのインタビューでは、決して「Why(なぜ?)」と聞かないこと。
理由はこうです。「なぜ」に答えるというのは、原因を特定するということです。しかし原因の特定は、実は専門家にとってさえ非常に難しい作業です。それを問われた村人はどうするか。分からないとは言いにくいので、忖度して、それらしい答えを返してしまうのです。調査者が「なぜ?」と聞けば聞くほど、データはもっともらしい作り話で汚れていきます。
先ほどの部下の模範解答と、まったく同じ構造です。人は、答えられない「なぜ」を問われると、相手が納得しそうな物語を作る。これは日本のオフィスでもケニアの農村でも変わらない、人間の性質なのだと思います。
では、教授はどう問うていたか。4Wで聞くのです。
たとえば、ある村で下痢が頻繁に発生していたとします。原因を知りたい場面です。ここで「なぜ下痢になるのだと思いますか?」とは聞きません。代わりに、こう聞いていきます。
- What:どの農作物を食べたときですか?
- Where:その作物は、どの畑で採れたものですか?
- When:どの季節に多いですか?
- Who:お年寄りですか? 若者ですか? 子どもですか?
お気づきでしょうか。この4つの問いには、「なぜ」と決定的に違う特徴があります。
答えるのに、考えなくていいのです。
思い出すだけ。あるいは、調べるだけ。原因の解釈も、責任の所在も、一切求められていません。ただ事実を特定する質問に過ぎないので、村人は忖度のしようがありません。安心して、知っていることをそのまま話せます。
事実が揃うと、人は勝手に考え始める
そして、ここからがこの質問術の本当に面白いところです。
4Wで事実が特定されていくと、あるところで、村人の側に変化が起こります。並んだ事実を眺めているうちに、自分から考え始めるのです。
「あれ……あの畑で夏場に作ったタロイモを食べたときに、下痢が出ている。ということは、原因は……」
誰も「なぜ?」と問うていないのに、原因の仮説が、本人の口から出てきます。
考えてみれば当然のことです。原因というのは、バラバラの出来事の中から共通するパターンを見つけたときに、初めて姿を現すものです。「なぜ?」といきなり問うのは、材料が揃っていない人に結論を要求する行為でした。順序が逆だったのです。先に事実を揃える。パターンが見えれば、原因は問わなくても立ち上がってくる。
しかもこのとき、原因は上司や調査者から与えられたものではなく、本人が自分で発見したものになっています。人は、他人に指摘された原因には言い訳をしますが、自分で見つけた原因からは逃げられません。納得の質がまるで違うのです。
職場でこう使う
この4Wは、そのままビジネスの現場に持ち込めます。
部下のミスが続いている場面を考えてみます。たとえば、請求書の金額ミスが数回起きているとしましょう。「なぜミスしたの?」の代わりに、冷静に、事実を特定する質問をしていきます。
- What:ミスが出ているのは、どの種類の書類? どの工程?
- When:発生したのはいつ? 月末の繁忙期? それとも通常期?
- Where:どの環境で作業していたとき? 自席? 会議の合間?
- Who:誰かのチェックは挟んでいた? 一人で完結する作業だった?
部下はこれらに、防御なしで答えられます。責められている感じがしないからです。事実を思い出すか、記録を調べるだけでいい。
そして事実が並んだところで、こう投げかけてみてください。
「並べてみて、何か気づくことはある?」
多くの場合、部下のほうから声が上がります。「……月末の締め日に、割り込みの仕事をさばきながら、チェックを挟まずに一人で処理したときに集中していますね」。原因も対策も、ここまで来ればもう半分見えています。上司が指摘するまでもなく、本人が自分の言葉で語り始めます。
上司の仕事は、原因を言い当てることではありません。部下が自分で原因にたどり着けるように、事実が並ぶ場を作ることです。
ひとつだけ、運用上の注意があります。4Wの問いも、矢継ぎ早に浴びせれば尋問に戻ってしまいます。口調は取り調べではなく、一緒にパズルのピースを並べる共同作業のトーンで。主語を「あなた」ではなく「ミス」や「業務」に置くのもコツです。「あなたはいつミスしたの?」ではなく、「このミスが出やすいのは、いつ?」。同じ4Wでも、矛先が人に向くか事実に向くかで、部下の心理はまったく変わります。
研修で、管理職がはっとする瞬間
私は管理職向けの研修で、この質問術の話をよくします。すると毎回、会場のあちこちで、はっとした表情が浮かびます。
そのあとに聞こえてくるのは、たいていこういう声です。
「責めているつもりは、まったくなかった。むしろ、原因をきちんと突き止めるのが上司の責任だと思って、『なぜ?』と聞いていました」
そうなのです。「なぜ?」を重ねてしまう管理職は、怠慢でも意地悪でもありません。むしろ真面目で責任感の強い人ほど、原因を明らかにしようとして「なぜ」を重ねます。なぜなぜ分析を学んだ経験のある人なら、なおさらです。善意と責任感が、結果として部下を防御に追い込む問いになってしまう。ここに、この問題の根深さがあります。
だからこそ、腹落ちも深いのだと思います。もしこれが「あなたの詰め方がきつい」という性格への指摘だったら、受講者は防御したくなるはずです。それこそ、「なぜ?」を向けられた部下と同じ反応です。しかし「問いの設計の問題」だと分かれば、話は別です。性格は変えにくいが、問いの設計は今日から変えられる。質問は才能ではなく、技術だからです。
研修では、架空のケースは使いません。受講者自身がいま職場で抱えている、実際の部下とのやりとりを題材に、「なぜ?」と聞きたくなる場面を4Wの問いに組み立て直してもらいます。自分の現実で組み直すからこそ、翌日の1on1からそのまま使えるのです。
もしあなたが人事や経営の立場でこの記事を読んでいるなら、ひとつ示唆があります。管理職に「威圧的になるな」「傾聴しろ」と姿勢を説くだけでは、対話は変わりません。本人は責めているつもりがないのですから、姿勢への注意は届かないのです。変えるべきは姿勢ではなく、問いの設計という技術です。技術であれば、学べます。
問いの矛先を、人から事実へ
まとめます。
- 「なぜ?」を人に向けると、答えは自己否定の告白になり、部下は防御としてもっともらしい原因を差し出す。原因はかえって遠ざかる
- 未来の行動を考えるなら「どのように?」で問う
- それでも原因の特定が必要なときは、「なぜ」ではなく4W(What・When・Where・Who)で事実を特定する
- 4Wは思い出すだけ、調べるだけで答えられるので、忖度が入らない
- 事実が揃えば、原因は本人の中から勝手に立ち上がる。自分で見つけた原因だからこそ、対策が本気になる
「なぜ?」と聞きたくなったときは、その「なぜ」をいったん胸にしまって、4つの事実の問いに分解してみてください。原因を追い詰めるのではなく、原因が姿を現すのを待つ。遠回りに見えて、それが結局いちばんの近道です。
ケニアの村人も、あなたの隣の席の部下も、そこは同じなのです。
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