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「自己基盤力」をベースに

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「今ここ」に立てる人は、なぜ強いのか|管理職研修で育てたい「自己基盤力」

管理職研修コラム|2E CONSULTING

「今ここ」に立てる人は、なぜ強いのか 岸見一郎さんの言葉から考える、管理職研修と「自己基盤力」


私たち2E Consultingは、管理職研修を通じて管理職一人ひとりの「土台」を育てています。スキルやノウハウを教える前に、その一番下に置いている力があります。それが 「自己基盤力」 です。

スキルでも、知識でも、役職でもなく、その手前にある力。
「自分の価値観と強みを土台にして、地に足をつけて意思決定し、安心して挑戦できる」。その自分の足で立つ感覚のことを、私たちはそう呼んでいます。

この自己基盤力という考え方は、アドラー心理学から多くのヒントを得ています。
先日、『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎さんの動画(未来のことばかり考え、人生を先送りしている人へ)を拝見して、自己基盤力という言葉で私たちが伝えたかったことが、とてもクリアに語られていると感じました。今回はその内容を紹介しながら、管理職研修の土台となる自己基盤力について、改めて言葉にしてみたいと思います。

「ザハリヒに生きる」、地に足をつけるということ

岸見さんは動画の中で、アドラーが十分に語りきれなかった概念として 「ザハリヒ(sachlich)」 という言葉を挙げています。日本語にすると「地に足がついた」「現実的」というくらいの意味だそうです。

我々は即座に生きられていない。過去のことをもって後悔し、未来のことをもって不安になる。でも、不安になっても何も解決しないし、過去のことを悔やんでも過去に戻ることはできない。だったら今ここを生きるしかない。

この「地に足をつけて、今ここを生きる」という感覚こそ、私たちが自己基盤力の中心に置いているものです。

人は不安になると、つい遠くを見ます。「この先どうなるんだろう」「あのとき、ああしておけば」。けれど、後悔も不安も、過去や未来という手の届かない場所にあります。手が届くのは、いつでも「今ここ」だけ。
自己基盤力とは、足元の現実にしっかり立って、そこから次の一歩を踏み出せる力のことなのだと思います。

地に足がつかなくなる「3つの障害」

興味深いのは、岸見さんが「地に足のついた生き方ができなくなる要因」を3つ挙げていることです。これは、管理職研修の現場で私たちが見てきた、管理職の自己基盤が揺らぐ瞬間とそのまま重なります。

① 人からどう思われるかを気にしてしまう

「上司にこんなことを言ったらどう思われるだろうか」「同僚はどう思うだろうか」と考えた時に、たとえ職場に不満があっても言えない。

これは多くの組織で起きていることです。よく思われることが目的になると、人は自分の人生ではなく、人に合わせた人生を生きるようになる。
2Eが大切にしている心理的安全性は、「気を遣わないこと」ではなく 「率直に話せること」 です。率直さは、人の評価から自由になれたところにしか生まれません。

② 理想を高く掲げすぎて、ありのままの自分を受け入れられない

2階の部屋に行くのに、はしごもかけずにジャンプして上ろうとしても、ほとんど不可能。一歩一歩、はしごの段を上がっていく着実な努力が必要。

「こうあるべき自分」を高く掲げすぎると、足元の「ありのままの自分」が見えなくなります。岸見さんは、それでは現実から乖離した人生になってしまうと言います。
ここで大事なのは、「ありのままを受け入れる=向上心がない」ではない、という点です。むしろ逆で、一番下の段(=今の現実)から始めるからこそ、着実に上っていける。自己基盤力は、自己満足とも自己否定とも違う、「等身大の自分から始める力」です。

③ 今を「仮の人生」だと思い、先送りしてしまう

小学生は中学のことを考え、中学に入れば高校、高校に入れば大学のことを考える。そうやって人生を「先送り」してしまう。

「何かが実現したら、本当の人生が始まる」。昇進したら、目標を達成したら、もっと力がついたら。そう考えているうちは、今がずっと「仮」のままになってしまいます。
キャリアも同じです。次のStageに上がるための「準備期間」として今を消費してしまうと、人はいつまでも本番にたどり着けません。今このStageを生ききることそのものに価値がある。私たちがキャリアパスを「役職の階段」ではなく「到達レベルの地図」として捉えているのも、この考え方と地続きです。

「成し遂げたから価値がある」のではない

岸見さんの言葉で、私が特に大切にしたいのがここです。

我々はあまりに生産性に価値を置きすぎて、何かを成し遂げることでしか自分の価値を認められなくなっている。小さい子供は、何も成し遂げていなくても、その存在そのものが喜びと感じられる。それを大人にも当てはめなければいけない。

人の価値は、他者からの評価には依存しない。
動画では、詩人リルケのエピソードが紹介されます。若い詩人に向かってリルケは、「夜中に『自分は書かざるを得ないのか』と問いなさい。その答えが『はい』なら書きなさい」と諭した、と。売れるかどうか、評価されるかどうかではなく、自分が本当にそれをしたいのかを問え、ということです。

これは、2Eが社名に込めた Engagement(自分ごと化) そのものです。
私たちはEngagementを「自分の価値観・強みを土台に、主体的に意思決定できている状態」と定義しています。承認欲求を満たすために動くのではなく、自分の内側から動ける。そのとき初めて、人は評価に振り回されない安定した土台を持てるのだと思います。

あわせて読みたい:この「自分の側から動く」という主体性については、「他責」か「自責」かではない――責任=反応する能力 でも掘り下げています。

評価制度をつくる立場の私たちがこう言うのは少し逆説的ですが、本気でそう考えています。評価は人を値踏みするためにあるのではなく、一人ひとりが自分の成長を確かめ、安心して挑戦するための地図であるべきだ、と。

トラウマを否定するのではなく、「これから」へ向ける

『嫌われる勇気』の「トラウマはない」という主張は、しばしば誤解されます。岸見さんはここを丁寧に解きほぐしています。

心を病むような出来事がないわけではない。それでもなお過去にとらわれていたら前に進むことはできない。「トラウマを乗り越えて生きる勇気」を伝えたいので、あえてきつい言い方をしている。

カウンセラーが過去の苦しみに「大変でしたね」と共感する。それは大切なことだけれど、そこで終わってしまったら人生は変わらない。

「これまでの人生がどういうものだったか分かった。さあ、これからどう生きていくか、一緒に考えましょう」。そう言える誰かが必要だ。

これは、組織におけるマネジメントそのものだと思います。
過去の失敗やできなかったことを評価して終わるのではなく、「これからどうするか」へ視点を向ける。人を過去で決めつけず、未来を一緒に描く。それが、私たちの言う Empowerment(力の解放)、「安心して挑戦し、内側の力を発揮できる状態」をつくるということです。

あわせて読みたい:「これから」へ向かう変化を、意志ではなく仕組みで起こす話は、行動変容は意志の強さではない|脳科学で考える管理職研修 で解説しています。

人生は「ダンス」のように

動画の終盤、岸見さんは人生をダンスにたとえます。

音楽が始まったらダンスが始まる。音楽が終わったら、ダンスもそこで終わる。踊っているその時々が楽しい。踊っている時は、踊る前のことも、終わったあとのことも考えていない。

直線的に「過去→現在→未来」と人生を引き延ばすのではなく、踊っている今この瞬間を生きる。そうして振り返ったとき、「随分遠くまで来たな」と思える。それが人生のあり方だ、と。

岸見さんご自身、50歳で心筋梗塞に倒れた経験から、「この先ずっと続く」とは思えなくなったと言います。だからこそ、

自分が今こうやって生きていることが、何らかの仕方で他者に貢献している。その感覚(他者貢献感)を持てたら、それが生きる喜びになる。

地に足をつけて、今ここを生きる。そして、自分の存在が誰かの役に立っていると感じられる。

これが揃ったとき、人は不安や評価から自由になって、自分の力を発揮できる。私たちが自己基盤力という言葉で伝えたいのは、まさにこの状態です。

なぜ管理職研修は「自己基盤力」を土台に置くのか

最後に、2Eの思想を少しだけ。

私たちの社名「2E」は Engagement & Empowerment に由来します。

  • Engagement(自分ごと化):自分の価値観・強みを土台に、主体的に意思決定できている状態
  • Empowerment(力の解放):自分らしさを尊重され、安心して挑戦し、内側の力を発揮できている状態

この2つが揃うと、人が変わり、組織が変わり、社会が変わっていく。そう信じています。
そして、このEngagementとEmpowermentが立ち上がるための一番下の土台が、自己基盤力です。

岸見さんの言葉を借りれば、それは「ザハリヒに、地に足をつけて、今ここを生きる力」。
他者の評価ではなく自分の価値観に立ち、ありのままの自分から始め、過去ではなくこれからを生きる。その土台があるからこそ、人は安心して挑戦できるし、挑戦できる人がいる組織は強い。

私たちが目指すのは、管理職を“罰ゲーム”にしない組織です。

そのためにまず必要なのは、立派な評価制度でも、完璧なスキルでもなく、一人ひとりが自分の足で立てること。
だからこそ私たちの管理職研修は、テクニックを教える前に、この「自己基盤力」を据えています。管理職研修が本当に育てるべきなのは、不安や評価に振り回されず“今ここ”に立つ力。その土台の上にこそ、しなやかで強いマネジメントは育つと、私たちは考えています。

参考:岸見一郎『未来のことばかり考え、人生を先送りしている人へ』(『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』公式動画)
https://youtu.be/po96-D_KvQQ

Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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