SERIES|評価者の旅 ── 裁定から成長支援へ、管理職研修10講 最終回
評価者向けの管理職研修の最終日、参加者の方からこんな問いが投げかけられることがあります。「いろいろ学んできましたが、結局、評価って何なんでしょうね」「面談のフレームは理解しました。でも、自分が本当にやろうとしていることは何なのか、もう一度言葉にしておきたい気がします」──。
良い問いです。フレームや手順を学ぶと、技術には少し自信がつきます。けれども、技術の根っこにある自分のスタンスが言葉になっていないと、現場で必ず迷います。「これは伝えるべきか、伝えないべきか」「ここで踏み込むべきか、待つべきか」──迷ったときに立ち戻れる軸が必要です。
最終回となる本記事では、評価者としてのスタンスを自分の言葉で固めるための実践ワークと、評価という営みの最も豊かな側面──評価者自身が活かされていくという事実──について書いていきます。
評価者としての自分を、見つめ直す六つのワーク
ここでは、評価者として自分を点検するためのワークを六つ紹介します。一度にやる必要はありません。少し時間が取れる夜に、ノートを開いて一つずつ書いてみる──そんな使い方で十分です。
被評価者だった自分を、振り返る
第1回でも触れた問いを、もう一度置いておきます。
- あなたがこれまでに受けた評価面談の中で、最も納得感があった面談はどんなものでしたか? 上司は何をしてくれましたか?
- 逆に、最も納得感がなかった面談はどんなものでしたか? 上司の何が、あなたを納得させなかったのでしょうか?
- その経験を踏まえて、あなたは部下にどんな面談を提供したいですか?
理屈ではなく、自分の体に刻まれた記憶から評価のあり方を引き出す──これは何度立ち戻っても価値のあるワークです。
評価の本質を、自分の言葉で定義する
研修テキストに書かれた定義を、そのまま暗記しても意味はありません。自分の言葉で語れるかどうかが大事です。
評価とは、 である。
この空欄を、自分の言葉で埋めてみてください。1行でもいいし、3行になってもいい。書いてみると、自分が評価をどう捉えているかが、はっきり見えてきます。そしてもう一問。
その定義に照らしたとき、いまのあなたの評価運用は、どれくらい一致していますか?
定義と現実のあいだのズレが、あなたの次の課題です。
期初の握りを、点検する
特定の部下一人を思い浮かべて、いま握っている目標を点検してください。
- 達成すべき目的(ありたい状態)が、定性的な言葉で描けているか
- 達成を測る指標(数値・状態・マイルストーン)が設定されているか
- 達成のための主要な行動・施策が、概ね見えているか
- 上司としての期待を、明確に伝えているか
- 部下自身のやりたいことを、対話で引き出しているか
- その目標を、部下が自分の言葉で語れる状態になっているか
抜けがあったら、次の1on1で握り直してください。期の途中で握り直すのは、敗北ではなくマネジメントの改善です。
行動評価の軸を、自分の組織に翻訳する
「目的への貢献」「貢献意欲」「コミュニケーション」──この三軸が、あなたの組織では具体的にどんな行動として現れるべきかを書き出してみてください。
| 軸 | 自組織での具体的な行動 |
|---|---|
| 目的への貢献 | (書き出してみる) |
| 貢献意欲 | (書き出してみる) |
| コミュニケーション | (書き出してみる) |
このリストができると、評価面談で「行動」を語る言葉が一気に増えます。「気が利く」では片付けない評価者になるための、地味で大事な準備です。
部下を観察し、事実を整理する
面談前に、特定の部下の半年間について、次の事実を整理してみてください。
- 今期の目標と、込めた期待
- 目標に対して、良かった取り組み(観察できた事実を3つ以上)
- その事実が、組織や顧客に具体的にどう良かったか
- 目標に対しての伸びしろ(事実ベースで)
書いてみるとわかりますが、事実を3つ以上挙げるのは、意外と難しいものです。挙げられないとしたら、それは部下の問題ではなく、あなたが期中に十分観察できていなかった証拠です。次の半年は、観察と記録を強化する。これは評価者の重要な仕事です。
次の評価面談を、設計する
最後に、次の評価面談に向けて、設計図を書いてみましょう。
- 冒頭5分で行うこと
- 自己評価を引き出すための問いかけ(3つ以上)
- 「できたこと」として具体的に伝える内容
- 伸びしろを「事実→影響→期待」のフレームで整理
- 来期への接続としての問いかけ
ここまで書ければ、当日は設計図に沿って動くだけ。面談前夜の不安は、設計の不在から生まれるものです。
評価と1on1は、別のスキルではない
ここまで読んでくださった方には、もう伝わっていると思います。評価と1on1は、別々のスキルではないということが。
期初の目標合意 → 期中の1on1 → 期末の評価面談 → 次の期初へ
この一連のマネジメントサイクルが、有機的につながったとき、初めて「人を活かす組織」が立ち上がってきます。評価面談は、独立したイベントではなく、普段のマネジメントの集大成です。だからこそ、普段のマネジメントを良くしないと、評価面談も良くならないのです。
これは厳しい事実でもあり、希望でもあります。厳しいのは、評価面談だけ頑張ろうとしても無理だ、ということ。希望は、普段のマネジメントを良くしていけば、評価面談は自然に良くなっていくということです。評価面談の苦痛は、普段のマネジメントを変える招待状でもあります。
評価者自身もまた、活かされていく
最後に、評価者にとっての評価面談の意味を、もう一度言葉にしておきます。
評価面談で露呈する課題──期初の握りの甘さ、期中の対話不足、目標の解像度不足、フィードバックの躊躇──これらはすべて、評価者であるあなた自身の成長課題でもあります。部下を映す鏡が、評価者自身を映していたのです。そして、ここに評価という営みの最も豊かな側面があります。
部下の成長を真摯に願い、その成長に向き合うとき、評価者自身もまた成長していく。
部下に「期初に何を目指したいか」を真剣に問うとき、自分も同じ問いに向き合うことになります。部下に「来期どう挑戦したいか」を語らせるとき、自分も中長期の自分像を考えざるをえなくなります。部下にフィードバックを率直に伝えるとき、自分の中に率直さが育っていきます。
評価とは、人を活かす営みである。そして、人を活かす営みを通じて、評価者自身もまた活かされていく──これが、評価という営みの本質です。管理職研修を超えて、日々の実践のなかで何度も立ち戻る軸になるはずです。
旅は、ここから始まる
10回にわたって書いてきましたが、これらの記事を読んだだけで、評価者としての旅が完了するわけではありません。ここから先が、本当の始まりです。
次の評価面談で、たった一つでいい、これまでと違うことを試してみてください。冒頭5分の整え方を変えてみる。自己評価を先に聞いてみる。「事実→影響→期待」で課題を伝えてみる。来期への問いを3つ用意して臨んでみる──どれか一つでも実践すると、面談の手触りが変わります。
そして、面談を終えたあとに、自分の振り返りをしてください。「何が良かったか」「何が足りなかったか」「次回はどう変えるか」。この振り返りこそ、評価者としての成長サイクルそのものです。
完璧な評価者など存在しません。けれども、良くなり続ける評価者にはなれます。部下と共に成長し、未来を創る──この営みを、あなたが楽しみながら歩んでいかれることを、心から願っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。あなたの次の評価面談が、これまでとは少しでも違う、意味のある時間になりますように。
裁定から成長支援へ。
評価者の旅は、ここから始まります。
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