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「自己基盤力」をベースに

管理職を“罰ゲーム”にしないための、マネジメント再設計。

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管理職研修の効果測定|満足度以外に見るべき5つの指標

「で、今回の管理職研修、効果はどうだったの?」
「……はい、参加者の満足度は、非常に高くて」

役員会や経営会議で、この数秒の沈黙を経験したことはないでしょうか。

研修は無事に終わった。アンケートの満足度も高い。講師の評判も良かった。それなのに「効果はあったのか」と正面から問われると、胸を張って答えられない。多くの人事・研修担当の方が、ここで言葉に詰まります。

ただ、ここで申し上げておきたいことがあります。多くの場合、効果が「出ていない」のではありません。「測る仕組みがないから、見えていない」だけです。この二つは、まったく違う問題です。前者なら研修そのものを見直す必要がありますが、後者なら、設計を足すだけで解決します。

このような課題をお持ちの人事・研修ご担当の方へ

  • 受講後アンケートの満足度は高いのに、「効果は?」と聞かれると答えに窮する
  • 効果測定をやったほうがよいのは分かるが、何を測ればいいか分からない
  • 高額なアセスメントを入れる予算はない
  • 測定はしているが、結果が次の企画に活きていない

この記事では、統計の専門知識も高額なアセスメントも使わずに、「管理職は変わったのか」に事実で答えられる状態をつくるための設計を、順を追ってお伝えします。カークパトリックモデルの誤解を解いたうえで、見るべき5つの指標と、3か月後にそのまま配れる行動サーベイの設問まで、実物の形でご紹介します。

この記事の結論

効果測定を変えるとは、アンケートの設問を増やすことではなく、「満足度(レベル1)」から「行動変容(レベル3)」へ、測る対象そのものを移すことです。そのために必要なのは、次の3つだけです。

  • 研修に、比較の起点(ベースライン)を取っておく
  • 研修後3か月に、「どう思うか」ではなく「何回やったか」を聞く
  • 結果を、評価ではなく現場の対話に還す

管理職研修そのものの全体像については、管理職研修とは?目的・内容・カリキュラム・設計手順・効果測定まで解説(ピラー記事)で整理しています。あわせてご覧ください。

「満足度は高かったです」で会話が終わってしまう理由

まず押さえておきたいのは、感想アンケートは研修の「品質」は測れても、管理職の「変化」は測れないということです。

「分かりやすかった」「満足した」「講師が良かった」は、その場の体験に対する評価です。一方で経営が知りたいのは、「研修を受けた管理職が、現場で本当に変わったのか」という一点。この二つは、測っている対象が最初から違います。

感想アンケート 効果測定
測っているもの 研修当日の満足度・理解度 管理職の状態・行動の変化
測る時点 研修直後の一点 研修の前と後の二点以上
答えられる問い 「良い研修だったか」 「管理職は変わったか」
経営への説明力 弱い(主観の集計) 強い(起点との比較)
主な用途 講師・運営の改善 次の育成投資の判断

誤解のないように申し添えると、満足度を測ること自体は悪いことではありません。満足度が極端に低ければ、内容か進め方に問題があるサインですし、講師や運営の改善には欠かせない情報です。

問題は、それだけで終わっていることです。満足度しか持っていないと、研修は「やったかどうか」でしか語れなくなります。そして「やったかどうか」でしか語れない施策は、予算が厳しくなったときに、真っ先に削られます。

効果測定は、研修を守るための仕組みでもあります。「変わった」を語れる材料があるかどうかが、来年度の予算折衝の景色を変えます。稟議の通し方については 管理職研修の稟議書の書き方|経営を通す7項目とそのまま使える例文 で詳しく扱っています。

カークパトリック4段階モデルの、よくある3つの誤解

研修の効果測定を調べると、必ず出てくるのが「カークパトリックの4段階評価モデル」です。1950年代にドナルド・カークパトリックが提唱し、いまも研修評価の共通言語として使われています。

レベル 測るもの 具体例
レベル1
Reaction
反応・満足度 受講後アンケートの満足度、講師評価
レベル2
Learning
学習・理解 理解度テスト、演習の成果物、研修中の発言
レベル3
Behavior
行動変容 現場での1on1の実施、フィードバックの頻度、任せ方の変化
レベル4
Results
業績・成果 離職率、エンゲージメント、生産性、業績指標

モデル自体は非常に有用です。ただ、実務で使おうとすると、次の3つの誤解が測定を止めてしまうことがあります。

誤解① レベル1から順番に積み上げていくものだ

4段階という並びから、「まずレベル1をしっかり測って、余裕ができたらレベル2、その次はレベル3」と順番に進むものだと理解されがちです。しかしこの順序で進むと、ほとんどの組織はレベル1と2で止まります。日常業務に追われるなかで、「余裕ができたら」は、たいてい来ないからです。

カークパトリックの後継者たちが提唱した新しい枠組み(New World Kirkpatrick Model)でも、設計は上から、つまり「最終的に何が変わってほしいのか」から逆算すべきだと強調されています。

つまずく順序(積み上げ型)

レベル1を測る
→ 余裕ができたらレベル2
→ いつかレベル3

結果:レベル1で止まる

機能する順序(逆算型)

現場でどうなってほしいか(3)
→ そのために何を学ぶか(2)
→ どう届けるか(1)

結果:測るものが最初から決まる

逆算で考えると、効果測定は「研修が終わってから慌ててやること」ではなくなります。研修を企画する段階で、「3か月後、管理職に何をしていてほしいか」を一文で書く。それが決まれば、測る項目は自動的に決まります。

誤解② レベル4(業績)まで測らないと意味がない

「どうせやるなら業績への影響まで示さないと、経営は納得しない」——この考えが、かえって測定を始められなくしていることがあります。

正直に申し上げると、管理職研修の効果を業績の数字だけで証明するのは、極めて困難です。業績には市況、商品力、人員配置、他施策など無数の要因が同時に効いています。そのなかから研修の寄与分だけを切り出すには、統制群を置いた実験デザインのような仕掛けが必要になり、通常の人事オペレーションでは現実的ではありません。

ここで発想を変えます。経営が本当に知りたいのは、厳密な因果推論ではなく「投じた費用が、意図した変化を生んでいるか」です。そして、その問いにはレベル3(行動変容)で十分に答えられます。

レベル3で語れることの例

  • 研修前は月1回未満だった1on1が、3か月後には月2回以上に定着した管理職が過半数を超えた
  • 「部下に期待を言葉で伝えている」と回答した部下側の割合が、研修前より上がった
  • 一方で、「任せる」の行動だけは変わっていない。ここが次の打ち手になる

3つ目のように「変わらなかったこと」まで示せると、報告の信頼性は一段上がります。すべてが良くなったという報告より、どこが動いてどこが動かなかったかを言える報告のほうが、経営には響きます。

誤解③ 満足度が高ければ、行動も変わっているはずだ

これが最も根深い誤解かもしれません。「あれだけ盛り上がったのだから、現場でも実践しているだろう」という推測です。

しかし研修評価の分野では、受講直後の満足度と、その後の行動変容との結びつきは、一般に想定されるほど強くないことが繰り返し指摘されてきました。1980年代末に行われた代表的なメタ分析以降、複数の研究がこの点を報告しています。個別の研修によって事情は異なりますので断定はできませんが、少なくとも「満足度が高い=行動が変わった」と読み替えることはできない、と考えておくのが安全です。

実感としても、思い当たる節はないでしょうか。心を動かされた研修でも、翌週の現場に戻れば、目の前の業務に飲み込まれていく。満足は「体験」への評価であり、行動は「環境」に規定されます。この二つが一致しないのは、受講者の意志が弱いからではありません。

満足度が高くても、現場が変わらない3つの理由

では、なぜ「良い研修」が行動に届かないのか。構造として捉えると、次の3つに整理できます。

理由1:職場に戻ると、元の力学がそのまま復元される

研修会場では、管理職は「学ぶ人」でいられます。しかし現場に戻れば、数字を追い、トラブルに対応し、自分の担当業務も抱えるプレイングマネージャーに戻ります。研修で学んだ行動は「増やす」ものですが、戻った先の時間はすでに埋まっています。

この構造を扱わずに「学んだことを実践しましょう」と伝えるだけでは、ほぼ必然的に元に戻ります。学びが現場に移らない仕組みについては、管理職研修が「やりっぱなし」で終わる4つの構造的原因で詳しく解説しています。

理由2:「何をすればいいか」が行動の粒度になっていない

研修で扱うのは、多くの場合「傾聴する」「部下の成長を支援する」といった概念です。概念は理解を助けますが、そのままでは実行できません。「傾聴する」は行動ではなく、状態の記述です。

行動の粒度とは、「次の1on1で、部下が話し終わるまで自分から質問を挟まない」といったレベルを指します。ここまで降ろされていない学びは、翌日には輪郭を失います。

理由3:戻ってしまったことに、誰も気づけない

そして3つ目。測っていないので、元に戻ったこと自体が観測されません。誰も気づかないまま次年度を迎え、また新しいテーマの研修が企画される。この繰り返しが、「毎年やっているのに、何も積み上がらない」という感覚を生みます。

逆に言えば、測るという行為そのものが、行動を引き戻す力を持ちます。「3か月後に、実施回数を聞かれる」と分かっているだけで、人の行動は変わります。効果測定は、成果を確認する道具であると同時に、成果を生む仕掛けでもあるのです。

管理職研修で見るべき5つの指標

ここからが本題です。「行動変容を測る」と言っても、管理職の行動は多岐にわたります。私たちが管理職育成の現場で実際に追っているのは、次の5つの指標です。

指標 測るもの 測る手段 測る時点
① 自己認識の変化 自分のマネジメントをどう捉えているか(土台) 診断・内省記述 前・後・3か月後
② 行動の頻度 1on1・フィードバック・権限委譲を実際に何回やったか 行動サーベイ(回数回答) 前・3か月後
③ 部下から見た変化 関わりが変わったと部下が感じているか 部下向けミニサーベイ(3問) 前・3か月後
④ 判断・課題設定の質 目標や課題の書きぶりが具体化したか 目標シートの記述比較 期初・期中
⑤ チームへの波及 部署単位の状態(心理的安全性・定着など) 既存サーベイの該当設問を流用 半年〜1年後

最初から5つ全部をやる必要はありません。初めて効果測定に取り組むなら、②と③の2つだけで十分に「変わったか」を語れます。

指標① 自己認識の変化──土台が動いたか

管理職の行動は、「何をすべきか」を知っているかどうかより、「自分をどういうマネージャーだと思っているか」に強く規定されます。部下に任せられない管理職の多くは、任せ方を知らないのではなく、「自分が見ていないと不安だ」という前提を持っています。

この土台の部分を、私たちは自己基盤力と呼んでいます。ここが動くと、その上に乗るスキルの使われ方が変わります。逆にここが動かないまま技術だけ足しても、現場では使われません。

測り方はシンプルです。研修の前後で同じ問いに答えてもらい、記述の変化を見ます。

自己認識を測る3つの問い(研修前後で同一の問いを使う)

  • あなたにとって「良いマネジメント」とは、どのような状態ですか(3行程度)
  • いまのチームで、あなたが最も手放せていないことは何ですか
  • 部下の成長のために、あなたが直近1か月で意識的にやったことは何ですか

スコア化しなくても構いません。研修前の自分の回答を、研修3か月後に本人に読み返してもらうだけでも、変化の自覚が生まれます。これは測定であると同時に、内省の仕掛けにもなります。

指標② 行動の頻度──「どう思うか」ではなく「何回やったか」

5つの中で、最も費用対効果が高いのがこの指標です。ポイントは一つだけ。「そう思う/ややそう思う」の5件法をやめて、回数で聞くことです。

意識を聞く設問(弱い)

「部下の話を傾聴できていると思う」
→ そう思う/ややそう思う/…

問題:自己評価が甘くなりやすく、前後で比べても差が出にくい

行動を聞く設問(強い)

「この1か月で、部下と1対1で30分以上話した回数は?」
→ 0回/1回/2〜3回/4回以上

利点:事実なので前後比較が成立し、集計してそのまま報告できる

意識ではなく回数を聞くと、集計結果がそのまま経営への報告資料になります。「傾聴できていると思う人が増えました」より、「1on1を月2回以上実施している管理職が、38%から71%になりました」のほうが、伝わる強さは比べものになりません。

なお、記憶に頼った回答には限界があります。人の記憶は、思っているより書き換わります(上司の記憶は、なぜ書き換わるのか)。だからこそ、「1か月」といった短い期間に区切って聞くことが大切です。「この半年で何回」は、ほぼ推測になります。

指標③ 部下から見た変化──最も説得力のあるデータ

管理職本人の自己申告だけでは、どうしても甘さが残ります。そこで効くのが、部下側に3問だけ聞くという方法です。

本格的な360度評価を導入する必要はありません。3問なら、回答は1分で終わります。負担が小さいので回収率が上がり、継続もできます。

部下に聞く3問(研修前と3か月後に同一設問)

  1. この1か月で、上司と1対1で仕事以外の話も含めて話した回数は?(0回/1回/2〜3回/4回以上)
  2. いま自分に何を期待されているか、言葉で説明できますか?(できる/だいたいできる/できない)
  3. 上司から、仕事の進め方について具体的なフィードバックを受けた回数は?(0回/1回/2〜3回/4回以上)

この3問が強いのは、いずれも「上司が何をしたか」を、部下側の事実として聞いている点です。「上司は信頼できますか」のような評価を求める設問は、回答者に心理的な負荷がかかり、匿名でも本音が出にくくなります。

指標④ 判断・課題設定の質──書かれたものは変化を映す

新しく指標を作らなくても、すでに社内にあるものが使える場合があります。その代表が目標シートです。

研修の前後で、管理職が書いた目標の記述を並べてみてください。変化は、次のような形で表れます。

  • 「売上を伸ばす」→「新規顧客からの受注比率を、期末までに現状の◯%から◯%へ」と、達成基準が入る
  • 「部下を育成する」→「Aさんが単独で提案できる状態を、9月末までに」と、対象と期限が特定される
  • 自分の業務目標だけだったものに、チームの状態に関する目標が加わる

採点する必要はありません。「達成基準(数値・状態・期限)が書かれている目標の割合」を数えるだけで、十分に変化を示せます。目標の書き方そのものについては、目標設定フレームワーク6選|SMART・OKR・MBOの違いと3原則で整理しています。

指標⑤ チームへの波及──既存サーベイから借りてくる

最後は、部署単位の状態です。ここは新しく測るのではなく、すでに実施しているエンゲージメントサーベイやストレスチェックから、関連する設問だけを抜き出すのが現実的です。

ただし、この指標には注意が必要です。チームの状態は研修以外の要因(人員の増減、異動、繁忙期、事業環境)に大きく左右されます。因果として語るのではなく、「参考として並べる」程度の扱いに留めるのが誠実です。無理に成果として主張すると、かえって報告全体の信頼を損ないます。

「何を・いつ・どう測るか」を自社に落とし込む

本記事の考え方を、そのまま使える点検チェックリスト付きでまとめた資料をご用意しています。自社の研修に効果測定を組み込む際の、たたき台としてご活用ください。

効果測定ガイドを無料ダウンロード

効果測定は「3つの問い」で設計する

指標が決まったら、設計に移ります。効果測定の設計は、突き詰めると次の3つの問いに答えることに尽きます。

① 何を測るか──管理職の力を3つのレイヤーで捉える

管理職の何を測れば「変化」を捉えられるのか。私たちは、管理職の力を3つのレイヤーで捉えています。

レイヤー 問い
土台 自己基盤力(マネジメント観) どんな自分で在るか
思考 課題解決力 何を考え、どう決めるか
行動 対話力・組織対話力 どう関わり、動かすか

多くの研修は、いちばん上の「行動・スキル」だけを測ります。しかし、スキルという上物だけを見ていると、土台が動いたことによって、他の力が押し上げられるという変化を捉え損ねます。

私たちが管理職の方々の変化を追っていて繰り返し目にするのは、自己基盤が整い「何のために」という目的意識が芽生えたときに、もともと持っていた思考力が動き出すという順序です。課題解決の技術を新たに教えたわけではないのに、課題の立て方が変わる。行動やスキルだけを測っていたら、この変化は見えません。何を測るかの設計が、見える景色を変えるのです。

② いつ測るか──「期初に握れていないことは、期末に評価できない」

効果測定で最も多い失敗は、研修が終わってから測り始めることです。研修後のデータだけがあっても、比べる相手がいません。「1on1を月2回やっています」という数字は、それ自体では良いのか悪いのか判断できません。研修前が月3回だったなら、むしろ減っています。

これは人事評価とまったく同じ構造です。期初に何を期待するかを握れていなければ、期末にその達成度を評価することはできません。効果測定における「期初の握り」が、研修前のベースライン取得です。

測定スケジュールの基本形

  • 研修前(1〜2週間前):行動サーベイ+自己認識の3問+部下向け3問 ← ここが最重要
  • 研修直後:満足度・理解度(従来のアンケート。1分で終わる量に)
  • 研修3か月後:行動サーベイ+自己認識の3問+部下向け3問(前と同一設問)
  • 半年〜1年後:チーム状態の参考指標(既存サーベイから流用)

研修前のサーベイには、副次的な効果もあります。「3か月後に同じことを聞かれる」と受講前に分かるため、研修中の聞く姿勢が変わります。測定の告知そのものが、研修設計の一部として働くのです。

③ どう測る・どう示すか──「他者比較」ではなく「過去の自分」

3つ目は、結果の示し方です。ここを誤ると、効果測定は管理職にとって罰ゲームになります。

管理職同士のスコアを並べて比較すると、何が起きるか。低かった人は防衛的になり、翌回のサーベイでは実態より良い回答をするようになります。データの質が下がり、同時に現場の信頼も失われます。

そうではなく、比較対象は常に「3か月前の自分」に置きます。「あなたは他の管理職より低い」ではなく、「あなたは3か月前より、この行動が増えた/変わらなかった」と示す。これなら、受け取った本人が次の一手を考えられます。

組織全体の傾向を見るときだけ、集計値を使います。個人へのフィードバックは前後比較、経営への報告は集計値。この使い分けが、測定を続けられるかどうかを決めます。

行動サーベイの実物設計|3か月後に何を聞くか

ここまでの考え方を、実際の設問に落とします。そのまま自社の形式にコピーしてお使いいただけるよう、設問文の形で記載します。

設計の5原則

  1. 回数で聞く。意識・態度ではなく、行動の頻度を選択肢で答えてもらう
  2. 期間を1か月に区切る。長い期間の回数は記憶ではなく推測になる
  3. 研修前とまったく同じ設問を使う。文言を変えると比較が成立しない
  4. 「できなかった」を書く欄を必ず置く。責める設計にしない
  5. 人事評価には使わないと明記する。ここが崩れると、以後のデータは信用できなくなる

管理職本人向け:10問(回答目安5分)

■ 冒頭に必ず入れる一文

このアンケートは、研修の設計を改善するためのものです。回答内容が人事評価に用いられることはありません。できていないことを、そのままお書きください。

■ 行動の頻度(この1か月について)

  1. 部下と1対1で30分以上話した回数(部下1人あたり)
    0回/1回/2〜3回/4回以上
  2. 部下の具体的な行動について、事実にもとづくフィードバックを伝えた回数
    0回/1〜2回/3〜5回/6回以上
  3. 期初に設定した目標について、部下と進捗を確認した回数
    0回/1回/2回以上
  4. これまで自分がやっていた業務を、部下に任せた件数
    0件/1件/2件以上
  5. 部下の話を、途中で自分の意見を挟まずに最後まで聞けたと感じる場面の回数
    0回/1〜2回/3回以上
  6. 自分の判断について、その理由を部下に言葉で説明した回数
    0回/1〜2回/3回以上

■ 実践と障害(自由記述)

  1. 研修で学んだことを、意識して使った場面を1つ挙げてください
  2. 使おうとしたが、できなかった場面を1つ挙げてください
  3. 現場で実践するうえで、障害になっていることは何ですか
    時間がない/優先度が下がる/やり方が分からない/効果を感じられない/上司の理解がない/その他(  )
  4. 3か月前の自分と比べて、変わったと思うことがあれば教えてください

設問8と9が、次の研修設計の最重要データです。「やり方が分からない」が多ければ研修内容の問題、「時間がない」が多ければ職場環境の問題と、打ち手が分かれます。

部下向け:3問(回答目安1分)

前掲の指標③の3問をそのまま使います。運用上の注意は次のとおりです。

  • 匿名にする。ただし「誰の部下か」は集計に必要なので、上司名だけ紐づける
  • 部下が3名未満の管理職は、個人単位で開示しない。特定されるため、全体集計にのみ含める
  • 上司本人には、研修前と後の変化だけを返す(他の管理職との比較は返さない)

回収率を上げる、3つの実務的な工夫

  1. 研修の最後に「3か月後に同じことを聞きます」と予告する。不意打ちにしない
  2. 回答期限を「3営業日」に区切る。期間が長いほど、後回しにされて回収率は下がる
  3. 前回の自分の回答を添えて配る。比較の面白さが、回答の動機になる

測定結果を、次の研修企画につなげる

測っただけでは、何も変わりません。効果測定が価値を持つのは、結果が次の3か所に流れたときです。

流し先1:受講者本人へ(内省の材料として)

集計してレポートを作るより先に、本人に本人のデータを返してください。研修前の自分の回答と、3か月後の回答を並べた1枚。これだけで、多くの管理職が自分の変化に気づきます。

返し方も重要です。「あなたは1on1の回数が増えていません」ではなく、「1on1は増えていませんが、フィードバックの回数は増えていますね。障害として『時間がない』を挙げていましたが、どのあたりが詰まっていますか」。データは、対話のきっかけとして使うときに最も力を発揮します。

流し先2:次年度の研修企画へ

設問9(障害)の集計は、次の企画をほぼ決めてくれます。

最も多かった障害 次に打つべき手
やり方が分からない 研修内容の問題。演習量を増やす/扱う範囲を絞る
時間がない 研修では解けない。役割・業務量の設計に踏み込む
効果を感じられない 目的の納得が不足。研修前の動機づけと上長の関与を設計する
上司の理解がない 対象を一階層上へ広げる。管理職だけを変えようとしない

「毎年テーマを変えているのに積み上がらない」という状態から抜け出すには、この接続が要になります。育成体系そのものの組み立て方は、管理職育成を「体系化」する方法で解説しています。

流し先3:経営へ(報告は3行で足りる)

経営への報告は、長い資料より、次の3行が効きます。

経営報告の型

  1. 変わったこと:「1on1を月2回以上実施する管理職が、◯%から◯%へ」(数字で1つ)
  2. 変わらなかったこと:「一方、権限委譲の行動には変化が見られませんでした」(正直に1つ)
  3. 次にやること:「原因は時間の確保にあると分かったため、次期は業務の棚卸しとセットで設計します」

この3行を出せる人事は、「研修をやる人」ではなく「組織の状態を把握している人」として扱われるようになります。効果測定の本当の価値は、実はここにあるのかもしれません。

まず「現在地」を測ってみる

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効果測定でやりがちな、3つの落とし穴

最後に、現場で繰り返し目にしてきた落とし穴を3つ挙げます。

落とし穴1 「測れるもの」だけを目標にしてしまう

測りやすさで指標を選ぶと、本当に目指したかった「状態」が抜け落ちます。1on1の回数は測りやすいですが、回数を目標にした瞬間に、中身の薄い1on1が量産されることがあります。目的が先、モノサシは後。指標は目的の代理指標にすぎない、という自覚を持っておくことが大切です。

落とし穴2 指標を設定した時点で「完了」と錯覚する

測っただけでは現場は変わりません。測定結果を1on1や定例会議で「どう活かすか」まで設計して、はじめて効果になります。サーベイの実施が目的化していないか、定期的に点検してください。

落とし穴3 すべてを指標にしてしまう

あれもこれも測ると焦点がぼやけ、回答者の負担も増えて回収率が落ちます。効く指標だけに絞る。本記事の5指標も、まずは②と③の2つで十分です。

そして、これらすべての前提として——効果測定が、管理職にとっての罰ゲームになってはいけません。測定の目的は、できていない管理職を特定することではなく、変化を後押しし、次の設計を良くすることです。この一点がぶれると、どれほど精緻な指標を設計しても、現場から本当のデータは上がってこなくなります。

自社の効果測定セルフチェック

いまの自社の状態を、7項目で点検してみてください。

  • 研修のに、比較の起点となるデータを取っている
  • 研修3か月後に、行動を確認する仕組みがある
  • 設問が「どう思うか」ではなく「何回やったか」を聞いている
  • 管理職本人だけでなく、部下側にも聞いている
  • 結果を、本人に返している
  • 「できなかったこと・障害」を聞く欄がある
  • 測定結果が、次年度の企画に反映された実績がある

2つ以下なら、まずは「研修前のベースライン取得」だけを足してください。ここ一つで、語れることが大きく変わります。

よくある質問

Q. 効果測定には、どのくらいの工数がかかりますか?

本記事の設計であれば、設問はすでに用意されているため、社内のアンケートフォームに転記する初期作業(半日程度)と、実施ごとの集計作業が中心になります。回答者側の負担は、管理職5分・部下1分です。高額なアセスメントは必要ありません。

Q. 受講者が少人数でも測れますか?

測れます。ただし人数が少ないほど、割合(%)で語ると1人の増減で数字が大きく振れます。少人数の場合は、集計値より個人ごとの前後比較を中心に据えるほうが、実態を正しく伝えられます。

Q. 測定結果を人事評価に使ってもよいですか?

おすすめしません。評価に接続した瞬間、回答は「良く見せるための回答」に変わり、データとしての価値が失われます。育成のための測定と、処遇のための評価は、切り離して運用してください。

Q. 研修会社に効果測定まで任せられますか?

設計と実施の支援は可能です。ただし、測定結果を現場の対話や次年度の企画に還す部分は、社内でなければ担えません。研修会社を選ぶ際は、効果測定と定着までを設計に含めているかを確認されることをおすすめします。

Q. 過去に実施した研修について、いまから効果測定はできますか?

前後比較はできませんが、現時点の行動サーベイを取ることには意味があります。それが次回研修のベースラインになるからです。「今から始めても遅い」ということはありません。

まとめ:効果測定の5つのポイント

  1. 効果が出ていないのではなく、測っていないから見えていないことが多い
  2. カークパトリックモデルは逆算で使う。レベル4まで測らなくても、レベル3(行動変容)で経営には説明できる
  3. 見るべき指標は5つ(自己認識/行動の頻度/部下から見た変化/判断の質/チームへの波及)。まずは行動の頻度と部下側の2つから
  4. 設問は「どう思うか」ではなく「何回やったか」。そして研修前に必ず取る
  5. 結果は本人・次年度企画・経営の3か所に流す。比較対象は他人ではなく3か月前の自分

効果測定は、研修が終わってから慌ててやるものではありません。何を・いつ・どう測るかを、研修の設計段階から組み込むものです。そして、測って終わりにせず、結果を現場の対話に還す。ここまで含めて、はじめて研修は「行動変容への投資」になります。

あなたの会社の管理職研修は、「満足度」で語られているでしょうか。それとも、「変化」で語れているでしょうか。

最後に──研修と効果測定をセットで設計したい方へ

効果測定の設計でつまずく理由は、企業によって異なります。指標が決まらないのか、ベースラインを取る段取りが組めないのか、測ってはいるが結果が活きていないのか。どこで止まっているかによって、次の一手は変わります。

自社の研修に、効果測定をどう組み込むか整理しませんか

現在の研修内容と課題をうかがったうえで、自己基盤力・課題解決力・対話力の三層の考え方をふまえ、測る指標と測定スケジュールをご提案します。次のような段階からご相談いただけます。

・「研修はやっているが、効果を経営に説明できない」
・「測定を始めたいが、何から手をつければいいか分からない」
・「測ってはいるが、結果が次の企画に活きていない」

効果測定について相談する

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私たちが実際の研修で使用しているテキストの抜粋(32ページ)を、目次とあわせて公開しています。効果測定の前提となる「何を身につけてもらう研修なのか」を具体的にご覧いただけます。

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Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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