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評価面談の設計②──「事実→影響→期待」で伝え、来期へつなぐ

SERIES|評価者の旅 ── 裁定から成長支援へ、管理職研修10講 第9回

評価者向けの管理職研修で、よく出てくる本音があります。「できたことを褒めるのは、まあできるんですよ。問題は、課題を伝えるところで」「言いたいことはあるんですが、関係を悪くしたくなくて、結局言えずに終わる」「ストレートに言うと部下が落ち込むので、いつもオブラートに包みすぎて、結局伝わらない」──。

課題を伝えるのは、評価者にとって最も難しいパートです。けれど、ここを避けて通ると、面談は「お疲れさま会」になり、部下の成長機会を奪うことになります。課題は伝えるべきなのです。問題は、伝え方です。本記事では、課題を建設的に伝えるための強力なフレーム「事実→影響→期待」と、面談の最後を未来の出発点にするための接続を取り上げます。最後に、面談全体のタイムラインも整理します。

フィードバックの基本フレーム──「事実→影響→期待」

課題を伝える場面で、私たちが推奨する型がこれです。

STEP 01
事実

5W1Hで具体化された、反論できない事実を置く

STEP 02
影響

その事実が組織や顧客にもたらした具体的な影響

STEP 03
期待

未来の行動への期待+上司側のサポートのコミット

ステップ1:事実を伝える

最初に、反論できない事実を置きます。

ありがちな失敗は、ここで「評価」を伝えてしまうことです。たとえば「コミュニケーションが足りない」「危機感が薄い」「主体性に欠ける」──これらはすべて評価であり、解釈です。部下は「いや、そんなことありません」と反論したくなる。事実、そのほとんどは反論可能な印象論です。

代わりに、こう伝えます。「進捗共有が、納期の3日前のタイミングで初めてあった」──これが事実です。納期の3日前に共有があった、という事実そのものは、反論しようがありません。事実を起点にすることで、議論の土台が安定します

事実を取り出すコツは、「いつ・どこで・何が起きたか」を5W1Hで具体化すること。「いつもそうだ」「最近よく」のような曖昧な言い方ではなく、特定の場面の事実に落とすことが大事です。

ステップ2:影響を伝える

次に、その事実が何を引き起こしたかを伝えます。

事実だけ突きつけられても、本人には「だから何?」と感じられることがあります。影響を伝えることで、その事実の重みが伝わります。

先ほどの例で言えば、「進捗共有が3日前だった」という事実に対して、「その結果、関係部署の調整が間に合わず、納期が3日遅れた。先方からの信頼にも影響が出た」と続けます。

このとき、自分の感情ではなく、組織や顧客への具体的な影響で語るのがコツです。「私はがっかりした」と言うと、本人と上司の感情の問題になってしまいます。「組織にこういう影響が出た」と語ると、構造の問題として議論できます。

ステップ3:期待を伝える

最後に、未来の行動への期待を置きます。

過去の事実と影響を共有したら、「だから、来期はこうしてほしい」という期待を、明確に言語化します。「次の期は、懸念が生じた段階で、早めに私に相談してほしい」「進捗の節目で、定期的に共有する仕組みを一緒に作ろう」──こうした未来の行動への期待で締めくくります。

期待を伝える段階で、「私もこうサポートする」と一言添えると、さらに対話が前に進みます。「相談しやすいように、こちらからも週次で時間を取る」「困ったときは、私から動くから声を上げてほしい」──上司のコミットを言葉にすると、課題の話が一方的な指摘ではなく、二人で取り組む話になります。

三つの段階を、一連の流れで使う

具体例で、フレーム全体の流れを見てみます。

「あのプロジェクトで、進捗共有が納期の3日前のタイミングで初めて入ってきました(事実)。その結果、関係部署の調整が間に合わず、納期が3日延びて、先方の信用にも影響しました(影響)。次の期は、懸念が生じた段階で早めに相談してほしい。私の側も、月次で定期的に時間を取るようにします(期待)」

このフレームの強みは、部下が防衛的にならないことです。事実は反論できない、影響は議論できる、期待は協力できる──感情的な対立を生まずに、未来の行動につなげられます。

逆に、フレームを使わない伝え方を比べてみます。

「コミュニケーションが足りなかったよね。もっと気を配ってほしい」

これは事実も影響も期待も曖昧で、部下にとっては「何をどう直せばいいかわからない」モヤモヤだけが残ります。フレームの効果は、伝える側の整理にも、受け取る側の理解にも、両方に効くのです。

来期への接続で、面談を締める

課題のフィードバックが終わったら、面談の最後の10〜15分は、未来への対話に使います。これが、評価面談を「査定」ではなく「成長支援」に変える最後の仕上げです。

来期につなげるための問いの例:

  • 「来期は、どんなことに挑戦したい?」
  • 「来期、私(上司)にどんなサポートをしてほしい?」
  • 「3年後、5年後、自分はどうなっていたい?」

ポイントは、部下に語らせることです。上司が「来期はこうしよう」と先回りすると、また通告に戻ってしまいます。問いを投げ、沈黙を恐れず待つ。沈黙は、部下が考えている時間です。埋めようとしないでください。

特に三つ目の「3年後、5年後、自分はどうなっていたい?」は、部下にとって普段あまり考えていない問いかもしれません。すぐに答えが出なくても構いません。問いを投げ、考える種を渡すこと自体が、評価面談の意味です。来期だけを見ている評価面談と、中長期の方向性まで視野に入る評価面談では、終わったあとの部下の姿勢がまったく違ってきます。

評価面談の全体タイムライン(60分の場合)

ここまで整理したものを、一枚のタイムラインにまとめておきます。

時間 フェーズ 主に話すのは やること
0-5分 関係の質を整える 双方 環境/目的共有/状態確認/査定ではない宣言
5-25分 部下の自己評価を聞く 部下(中心) 成果と行動の両面で深く聴き、掘り下げる
25-35分 上司から事実を伝える 上司 できたことを具体的に/課題は事実→影響→期待
35-50分 ギャップを対話する 部下(中心) 自己評価との差分について部下の見解を聴く
50-58分 来期への接続 部下(中心) 挑戦したいこと/必要なサポート/中長期の方向性
58-60分 まとめ 双方 今日の合意確認/次のアクション確認

このタイムラインで気づいてほしいことが、二つあります。

気づき1:部下が話す時間のほうが、圧倒的に長い

合計すると、部下中心の時間が約45分、上司中心の時間が10分です。部下7割・上司3割──これが、評価面談の正しい配分です。「評価者の役割は、語ることではなく聴くこと」と言ってもいいくらいです。

気づき2:『ギャップを対話する』時間が、面談の核心

35〜50分の15分間が、面談の山場です。自己評価と上司評価のギャップについて、部下の見解を聴き、上司の事実を重ね、納得のいく地点を一緒に探す。ここが評価面談の本質であり、ここに時間を使えるかどうかで、面談の質が決まります。

一方的に告げて終わる面談は、評価ではなく通告である。ギャップを対話する時間こそ、評価面談の核心である。

評価面談は、評価者自身の鏡でもある

最後に、少し踏み込んだ話をします。

評価面談で部下に対して感じる課題──期初の握りの甘さ、対話不足、目標の解像度不足──これらは、すべて評価者であるあなた自身の課題でもあるということです。

「期末に揉めるのは、期初の握りが甘かったから」──これは部下の責任ではなく、評価者の責任です。「期中フィードバックをもっと早くすべきだった」──これも評価者の宿題です。部下の評価面談は、評価者自身の半年間を映し出す鏡でもあります。

部下の成長を真摯に願い、その成長に向き合うとき、評価者自身もまた成長していきます。これが、評価という営みの最も豊かな側面です。

今日できる、フレームの試運転

明日からすぐ使える2つのアクション

  1. 次に伝えたい課題を、フレームに落とし込む:「事実」「影響」「期待」の三段に書き分ける。書き出してみると、実は事実が曖昧だった、影響を整理できていなかった、と気づくことがあります。フレームは、伝える前の自分の整理にも効きます
  2. 来期への問いを、3つ準備する:面談の最後の15分で投げる問いを、事前に書いておく。準備があると、沈黙を恐れずに待てるようになります。

評価面談は、台本のないライブでも、形式的な手続きでもありません。設計された対話です。冒頭5分の整え、自己評価を先に聞く順番、事実→影響→期待のフレーム、来期への接続──これらの設計が積み重なったとき、管理職研修で目指す「部下と評価者の双方にとって意味のある時間」へと、面談は変わっていきます。

NEXT — 第10回(最終回)

次回はいよいよ最終回。評価という営みを通じて、評価者自身が何を得ていくのか──評価者の旅を、実践ワークと合わせて締めくくります。


Tetsuro

Tetsuro

株式会社 2E Consulting 代表。中小企業診断士。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。一橋大学社会学部卒。三菱商事にて製鉄用石炭・鉄鉱石のトレーディング・事業開発・投資事業に携わり、インド・ドイツ・シンガポールに9年間駐在。海外駐在において現地人材の育成・組織開発に携わる中で人材育成に興味を持ち、企業向け研修会社に転職、年間2,000人の受講生にビジネススキルを教える。Harvard Business School Program for Leadership Development 修了(2019年)。その後、独立し、中小企業診断士として数多くの企業経営の現場で経営改善に従事している。

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